開始から1年が経過した東京電力福島第1原発事故処理水の海洋放出を巡り、長期化する中国の水産物禁輸措置で行き場を失ったホタテの輸出が、東南アジアで大きく伸びている。青森県で陸奥湾産ホタテの販路を開拓してきた加工会社は、輸出急増の背景に、日本産ホタテを求めて東南アジアに拠点を移す中国の加工業者の存在があると指摘する。(青森総局・鶴巻幸宏)
「国が禁輸しているのに抜け穴を見つける。中国人の商売感覚なのだろう」。青森県内のあるホタテ加工会社の男性社長は、禁輸後の実情を口にした。
元々、中国は殻付きホタテを日本から輸入し、加工して米国に輸出してきた。「北海道や青森に拠点をつくったらどうか」。禁輸後、社長は中国の大手加工業者に提案した。業者は「日本だと東南アジアと比べて人件費がまだ高く、米国が買ってくれない」と東南アジアを拠点に操業する考えを示したという。
農林水産省によると、今年1~6月の日本のホタテの輸出額は、前年同期に214億円あった中国がゼロになったのに対し、ベトナムが7・9倍となる32億8700万円、タイが3・5倍の16億2600万円に増えた。これに呼応し、中国の業者が東南アジアに加工場を設ける動きが加速しているとみられる。
農水省輸出企画課の担当者は「中国のマイナス分の全てはカバーし切れていないが、国内の加工業者が輸出先の多角化を進めてきた成果が出てきた」と分析する。米国も1・6倍となる47億3800万円と増えた。中国を経由せず国内でホタテを加工・輸出する業者が増えたためという。
陸奥湾で水揚げされるホタテの2割近くを扱う青森市の水産加工会社「小田桐商事」も中国の禁輸に伴い、昨年10月以降、シンガポールやベトナムなどに販路を広げてきた。
岩谷孝社長(70)は「一番困っているのは日本の業者ではなく、実は原料が手に入らない中国の加工業者だ」とみる。中国の業者がベトナムなどに拠点を設ける動きを見聞きしており、「禁輸が解除されても、輸出先は以前のような中国一点張りには戻らないだろう。それに備えた中国の業者のしたたかさがある」。