スマートフォン(高機能携帯電話)人気が高まるなか、「ガラケー(ガラパゴス携帯)」と呼ばれる従来型携帯電話が復権の兆しをみせている。スマホ一辺倒だった携帯大手3社も「ユーザーからの要望」(加藤薫NTTドコモ社長)に応じ、冬春モデルでガラケー新機種を相次ぎ投入、安さや使い勝手だけでなく、機能面でも静かに“進化”しようとしている。急速に出荷台数を伸ばしてきたスマホの勢いがここにきてやや鈍化してきた。その一方、スマホに押されて絶滅間近とみられていたガラケーがしぶとく生き残り、独自の進化を始めた。
民間調査会社MM総研によると、スマホの出荷台数は2013年度上期(4~9月)に前年同期比14.5%減の1216万台にとどまった。横田英明取締役研究部長は「機能の進化や差別化が乏しくなったのに加え、パケット通信料や通話料が高止まりして、ガラケーからの買い替え需要が通信事業者の思惑通りに進んでいない」と分析する。
実際、ガラケー派は意外に多い。官庁勤務の女性(44)は「通話とメールしか使わないし、使い慣れているからスマホに変えるつもりはない」と話す。北海道岩見沢市の会社員(56)も「スマホは料金が高くつくし、周囲にも使っている人はほとんどいない」という。
スマホからガラケーに戻ったケースもある。都内在住の主婦(42)は「スマホは機能が多すぎて使いにくかった。それに、中学生の子供2人にガラケーを持たせていることもあり、いまは家族割りで月1万数千円に抑えている」と家計を重視する。
NTTドコモの13年9月末の携帯電話総契約数は6177万件。うちスマホは34%の2157万件。13年度の販売目標はスマホ1600万台、ガラケー850万台だが、年度末でもスマホの契約比率は40%前後にとどまる見通し。販売台数はスマホにシフトしていても、いまだに契約者の過半はガラケーというのが実態だ。加藤社長が10月10日の冬春モデル発表会で「iモード携帯(ガラケー)も毎年出していきます」と“ガラケー継続”を宣言したのも当然といえる。
携帯大手3社は冬春モデルの発表で、そろってガラケー新機種を投入した。ドコモが発売したパナソニックの「P-01F」は日光の下でも画面がくっきりみせる屋外モードや、近距離通信機能「ブルートゥース」を搭載した。KDDIが発売した京セラ製の「マーベラ」はワンセグ録画機能や高感度カメラを内蔵。CPU(中央演算処理装置)には米クアルコムのスマホ用チップ「スナップドラゴン」を搭載して処理速度を向上、全体の機能を進化させた。
ガラケー利用者のスマホへの移行が通信事業者の思惑通り進まない背景には、料金と使い勝手、セキュリティー面の懸念などがあるようだ。スマホは定額の月額データ通信料が大手3社横並びで5460円、ガラケーでは普通だった無料通話分がなくなり通話料は一律30秒21円。使い方で個人差はあるが、神奈川県在住の男性会社員(23)は「2倍近く高くなった」と嘆く。
データ通信の高速化やコンテンツ囲い込み、販売報奨金の積み増しなどでスマホ販売に躍起になっている通信事業者にとって、長期契約者の多いガラケー利用者層の満足度向上は重要課題といえそうだ。(芳賀由明)