東京電力福島第一原子力発電所の処理水海洋放出計画を巡り、韓国で水産業界の風評被害が深刻化している。科学的根拠がないまま食の不安をあおる「怪談」が出回っているためだ。放出計画の妥当性を認める韓国政府は国民の不安払拭に腐心している。(韓国南部・釜山 溝田拓士)
17日正午頃、釜山にある韓国有数の水産市場「チャガルチ市場」の人影はまばらだった。市場関係者は「汚染水(処理水)を巡るニュースが多かった7月の売り上げは6月の3分の1に減った」と話した。別の市場関係者は「『汚染水は危ない』という情報が多く流れると、誰でも不安になる」と漏らした。
韓国政府は輸入水産物の放射能検査を強化し、基準に合った水産物のみを流通させている。
しかし、左派系最大野党「共に民主党」は、処理水を「核廃水」と呼んで不安をあおる主張を繰り返している。処理水放出を心配する声が根強い世論を背景に、来年4月の総選挙を見据えて、放出に一定の理解を示す尹錫悦政権の対応を批判する狙いとみられる。
共に民主党の李在明代表は8日、青少年との懇談会で「(放出は)長期的に未来世代に大きな影響を与える」と強調した。9日にも同党国会議員が「人類史上初めての核廃水の海洋投棄で、国民の絶対多数が反対している」と話した。
韓国政府統計によると、日本からの魚介類の輸入量と輸入額は3月までは前年同月比で増加傾向だったが、4月以降、減少に転じた。日本政府は今月下旬にも放出を始める方向で調整中で、韓国では消費者の「魚離れ」(聯合ニュース)に歯止めがかからない状態だ。
韓国政府は7月前半に「福島汚染水(処理水) 10の怪談」と題した資料を公開した。処理水に関する偽情報の真相を平易な言葉で解説する内容だ。
韓国政府は関連の記者会見も平日に毎日開いている。7月下旬には尹大統領が夫人や側近を連れてチャガルチ市場を訪問。ホタテやアワビなどを買って食事した尹氏は「賢明な国民は怪談に動揺しない」と述べた。