「伝統讃岐うどんのノウハウをそのままに」と
8月15日、韓国に進出していた丸亀製麺が完全撤退した。撤退後の空き店舗がその後どうなったのか、実際に覗いてみると驚きの事実が……。羽田真代氏によるレポート。
残された3店舗のうち明洞店、新村店は「自家製麺 丸」と名乗って営業し、江南店は「讃岐製麺所」として生まれ変わった。この3店舗については看板のデザインも丸亀製麺にそっくりなことから、経営母体が変わったことに気付かないまま“丸亀製麺”のうどんを食べに訪れる韓国民も少なくないという。
日本のテレビ・メディアにとって格好の材料だったのか、取材を受けた明洞店側は「以前の店舗とは全く違うものだ。(丸亀製麺のコピーだと言われ)私もいま被害を受けている」(日テレ、8月27日報道)、「丸亀製麺を参考にしたがコピー営業しているわけではない。丸亀製麺に被害が出ないように今後も努力していく」(FNN、8月30日報道)とコメントしている。
しかし、今月1日に明洞店が開設した公式インスタグラムを覗くと、挨拶文に「自家製麺 丸の公式インスタグラム開設と商号変更についてご案内申し上げます。この間、丸亀製麺 明洞店をご利用くださったお客様に感謝申し上げます。9月1日から丸亀製麺 明洞店から“自家製麺 丸”として新しく出発しました。日本の伝統讃岐うどんのノウハウをそのままに、変わらぬ味とより良いサービスでお客様の愛に報います」と記述されていた。同様の文言は店舗入り口にも張り紙で掲示されている。
いかにも、株式会社丸亀製麺あるいは親会社である株式会社トリドールホールディングスが新しいブランドを立ち上げたかのように、誤解を招きかねない表現だ。
問題の「讃岐製麺所」を訪れると
先のFNNの取材に「丸亀製麺に被害が出ないように…」と答えていた明洞店だったが、放送の2日後には丸亀製麺の名前を使用してSNSで広報活動をスタートさせている。「丸亀製麺に被害が出ないように今後も努力していく」というあの言葉は何だったのだろうか。
今月3日、筆者は江南にある「讃岐製麺所」を訪れてみた。
店舗のガラスは一面ビニールで覆われており、“店舗改装中”の張り紙がされている(写真参照)。日本のメディアがコピー営業を問題視した影響だろうか。開店早々に改装とは尋常ではない。
これまで見てきたように、明洞店や新村店は丸亀製麺そっくりな看板を掲げ、外観や内装はもちろん、調理器具まで丸亀製麺運営時代のものを使用している。ブログやSNSには、客が使用する皿にまでしっかりと“丸亀製麺”と書かれている写真が確認できる。
唯一変わった点といえば、天ぷらがフライになったことくらいだろうか。
日本人にとっては「うどんにフライ?」と不思議に思われるかもしれないが、韓国で“エビ天うどん”を注文すると“エビフライうどん”が出てくることが少なくない。「自家製麺 丸」はコスト削減のために天ぷらを廃止したのか、それとも日本の天ぷらをコピーすることが叶わなかったのか…真相は不明だが、これでは店舗が謳う「日本のノウハウをそのままに、変わらぬ味を提供している」というセールス文句は偽りだと言われても仕方ないだろう。
韓国から撤退する日系企業はこれまで山ほどあったが、ここまで技術や道具を現地でコピーされたことはなかったのではないか。
韓国独自のパクリ・カルチャー
かねて言われてきたことだが、韓国は隙あらば日本製品をコピーする。カルチャーみたいなものだ。韓国のスーパーに足を運べば、かっぱえびせん、とんがりコーン、パックンチョ、ポッキー、エアリアルをパクった商品がパッケージも日本のオリジナルとそう変わらないままに並べられている。
2015年、ポッキーの高級版「バトンドール」を韓国ロッテが模倣した“事件”もあった。ペペロ(ポッキーのコピー)の高級版「プレミア ペペロ」のパッケージがあまりにも「バトンドール」に類似しているとグリコが訴訟を起こし、この訴えが韓国地裁に認められたのだが、大半の日系企業は韓国のコピーを見過ごすというか泣き寝入りしているのが現状だ。
昨年2月には、人気つけ麺店「つけ麺屋やすべえ」のコピー営業も発覚した。看板を本物そっくりにコピーし、韓国版やすべえのSNSには“#韓国、#本店、#1号店”と、あたかも日本の「やすべえ」が韓国に進出したかのように宣伝されるといった具合であった。
一方、韓国には「京都マーブル」なるデニッシュパンでとても有名な店がある。これは京都の「グランマーブル」のコピーだ。
店のホームページには「京都で100年近く変わらない伝統を維持するデニッシュ食パン。この伝統を韓国でそのまま再現した京都マーブル。64層のペイストリー(pastry)でできており、深い風味と滑らかでしっとりとした食感が楽しめます」とある。差し当たって5店舗を構えており、第1号店は日本人駐在員らが多く住む二村(イチョン)においてだった。
種苗法の改正にも影響を与えた
出店時、京都マーブルに不信感を抱いた筆者の知人が京都のグランマーブルに問い合わせしたことがあった。グランマーブルからは「韓国のお店の方が京都の店舗で働いていたことは事実だが、暖簾分けやフランチャイズ契約など締結した事実はない」と回答があったという。
韓国などによって、日本の農家が長年にわたって開発した苗が無許可で国外に持ち出される案件が相次ぎ、日本政府は昨年、種苗法の改正を余儀なくされた。しかし、その後も韓国内では石川県でしか栽培されていないはずのぶどう「ルビーロマン」や山梨県限定の「ジュエルマスカット」が栽培・出荷されていることが確認されている。
種苗法と丸亀製麺の技術を同列に論じるのはいささか乱暴かもしれないが、そこに共通するのは韓国に根付くパクリ文化ということになるだろうか。
羽田真代(はだ・まよ)
同志社大学卒業後、日本企業にて4年間勤務。2014年に単身韓国・ソウルに渡り、日本と韓国の情勢について研究。韓国企業で勤務する傍ら、執筆活動を行っている。
デイリー新潮取材班編集