ベトナム戦争に派遣された韓国軍による民間人虐殺をめぐり、ソウル中央地裁は韓国政府に約3000万ウォン(約310万円)を生存者女性に支払うよう命じた判決の余波が、広がる気配を見せている。ベトナム戦争時に虐殺された被害者数は膨大で、被害者や遺族から同様の訴訟が起こされる可能性がある。尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権は深刻に受け止める必要がありそうだ。
「(犠牲者らの)魂が、うれしい知らせによって、慰められるだろう」
虐殺の生存者であるグエン・ティ・タンさん(62)は判決後、支援者らとのビデオ通話で、こう語った。7歳だった1968年、ベトナム中部クアンナムの村落で、韓国軍部隊の銃撃を受けて腹部を負傷した。同村では女性の母や姉を含め、70人以上が殺害されたという。
ただ、今回の虐殺は氷山の一角に過ぎない。
韓国は64~73年、米国以外の国家としては最大の延べ約32万人をベトナム戦争に派兵した。韓国紙ハンギョレは2016年9月23日の日本語電子版に「(被害者数は)約9000人」とする推計を報じている。ベトナム各地には、韓国軍による虐殺を伝える慰霊碑や壁画が建てられている。
韓国では長く、韓国軍の蛮行はタブーとされてきた。
ハンギョレ発行の週刊誌「ハンギョレ21」が00年、キャンペーン報道を展開した際、ソウルにある本社ビルが退役軍人ら約2400人に取り囲まれた。一部が社内に乱入し、同社幹部を監禁し、パソコンや駐車場の車を破壊するなどして逮捕者が出る事態となった。
今回の判決をどう見るか。
朝鮮近現代史研究所所長の松木國俊氏は「韓国を代表する『KBSニュース』でも、時間をとって大きく報じており、国内でも注目されている。背景の一つには、ベトナム戦争で戦った人たちの社会的影響力がなくなってきて、反発が少なくなってきていることがある」と話す。
聯合ニュースは7日、「別の被害者の提訴が相次ぐ可能性がある」と伝えている。
松木氏は「ベトナムの人々も今回の判決を知っているはずだ。これから続々と新たな裁判が起きる可能性がある。問題が大きくなれば、国連で取り上げられることも考えられる。韓国軍の蛮行が国際的な糾弾を受けることもあり得るのではないか」と語った。