この4月4日、元徴用工とその遺族ら31人は、日本製鉄(旧・新日鉄住金)と三菱重工業、不二越、日本コークス工業の4社に損害賠償を求める新たな訴訟をソウル中央地裁に起こした。
これは、昨年10月に韓国最高裁が日本製鉄(当時の社名は新日鉄住金)に賠償を命じた判決が確定して以降、初めての追加提訴となる。
日本経済新聞の調べによると(2018年10月30日付「徴用工訴訟、70社超が対象に 訴状未着の企業多く」)、これまでに徴用工関連では計960人の原告から15件の訴訟が提起されており、日本製鉄、三菱重工業、不二越の他、日立造船、横浜ゴム、清水建設、住友化学、熊谷組、大林組、フジタ、クボタ、IHI、日産自動車、宇部興産、王子製紙、三井金属、森永製菓、三菱電機、鹿島、大成建設、古河機械金属、パナソニック、東芝、三菱マテリアルなど、71社に及ぶ日本企業がターゲットにされている。このリストに、新たに72社目として「日本コークス工業」という社名が加わった。
元徴用工らの支援団体は、4月29日にも光州地裁に追加の集団訴訟を起こすと表明している(4月9日付時事通信)。とどまることを知らない元徴用工訴訟。今後も提訴が続き、元徴用工らの主張が認められていくのか。元在韓国特命全権大使で、外交経済評論家の武藤正敏氏はこういう。
「“徴用工”の定義を定めないまま、募集に応募しただけの人も含めて徴用工と認めているから、我も我もと訴訟が膨れあがっていくのです。元徴用工訴訟の進行を遅らせたとして、日本企業の代理人を務めている韓国の法律事務所を家宅捜査したり、前韓国大法院長(最高裁長官)を逮捕したりと、文在寅政権は露骨に司法介入しているので、それに逆らう司法関係者はいません。どんな判決が出るかは予想がつきます」
このような事態になっても、文在寅大統領から解決の道を探ろうとする姿勢がまったく見えてこないのは、そもそも彼が「元徴用工訴訟を支援する立場」だからだという。
実は、一連の元徴用工裁判の仕掛け人は弁護士時代の文在寅氏である。韓国紙・東亜日報は、2018年12月3日付の記事「三菱強制徴用訴訟、文大統領が2000年に初めて提起」(電子版日本語)で、三菱重工業に対する最初の元徴用工訴訟で原告代理人を務めたのは、法律事務所「釜山」の代表弁護士だった文在寅氏だったとスクープしている。日本企業に対する訴訟で先陣を切った人間だけに、「(元徴用工らへの)韓国政府による補償」という解決策を打ち出すわけがない。
日韓関係の悪化を意に介さない文大統領の本音はどこにあるのか。武藤氏が語る。
「私は駐韓大使として、朴槿恵前政権が誕生した2012年の大統領選中に、有力候補だった文在寅氏に面会したことがあります。私は日韓の経済協力の重要性を説きましたが、文氏は終始無言で、初めて出てきた言葉が、『日本は北韓(北朝鮮)に対してどう臨むのか? 南北統一についてどう考えるのか?』でした。要するに、日韓関係がどうなるかは考慮せず、日本が北と良好な関係を結ぶのなら、日本との関係改善をしてもいいという意味だと私は捉えました」
あくまで“北朝鮮ファースト”で、日本との関係など二の次なのだ。それがもし本当なら、日本は対韓外交を根本から見直す必要がある。