K-POPグループやチャン・グンソクさん(24)といった新しいスターの登場で、日本における韓国ドラマは中高年女性だけでなく、若い世代にまで支持を広げている。「放送が多過ぎる」という批判もあるが、人気が過熱し、地上波での放送権をめぐって争奪戦も繰り広げられているほどだ。その魅力とは何か。どこへ向かおうとしているのか。
■抗議デモ
8月下旬、フジテレビが東京・お台場の本社近くで開いた韓国ドラマ「マイ・プリンセス」のイベント。主演のソン・スンホンさん(35)が優しく手を振ると「キャー」と歓声が上がった。「目がきれい」「たたずまいがすてき」。集まった約3000人は中高年女性が中心だが、若い女性も交じる。
一方で、今夏はフジへの批判が相次いだ。俳優の高岡蒼甫さん(29)が、「フジは韓流番組が多すぎる」という趣旨をツイッターに書き、その影響もあってフジへの抗議デモが数回あった。フジはこうした動きには沈黙を守り、公式ホームページで「どのような番組を放送するかは、総合的かつ客観的に判断し決めている」との見解を示すにとどめた。
■夢や希望
韓国ドラマの主戦場はもともとBSやCSだった。しかし最近は地上波にも進出し、一ジャンルとして根付いている。
「マイ・プリンセス」が放送されたフジの「韓流α」(平日午後、関東ローカル)枠。昨年1月のスタート以来、イ・スンギさん(24)が出演した「華麗なる遺産」、グンソクさん主演で、K-POPスターのイ・ホンギさんが共演した「美男(イケメン)ですね」などのラブコメディーを中心に編成している。
平均5~6%の視聴率を記録した作品も多く、平日午後としては好調だ。何より10~20代の女性視聴者を掘り起こした功績は大きい。フジ編成部の松崎容子副部長は「日本では今、視聴者自身の問題をそのまま描いたようなリアリティーのある作品が多い。だからこそ夢や希望が詰め込まれ、気軽に見られる韓国作品が求められている」とみる。
不況で番組制作費が削られているという事情もある。「自局制作ドラマは再放送でも二次使用料などが発生し、意外にコストがかかる。韓国ドラマは再放送より安くて高い視聴率が見込める」と松崎副部長は明かす。
TBSも昨年から平日午前に関東ローカルで「韓流セレクト」という枠を設置した。
■質の確保
だが、日本人好みの作品は限られており、品薄感で買い付け額が上昇しているとの指摘もある。次のグンソクさんの出演作をめぐり、日本の放送局の間で争奪戦が繰り広げられているという。TBSの担当者は「中身も分からないまま青田買いせざるを得ない状況。実力以上の値がつくケースも多い」とぼやく。
韓国ドラマに距離を置く在京キー局もある。日本テレビやテレビ朝日には今、韓国ドラマのレギュラー放送枠が地上波にはない。「海外ドラマに1枠与えるくらいなら、自局の制作者がドラマを作る機会を増やしたい」(日テレ)というのが理由だ。
質を確保するために、企画段階から日本側の意向を反映させる動きも出てきた。TBSやポニーキャニオンなどが6月、韓国の芸能事務所などと創設したドラマ専門ファンドがそれだ。
参加する映像制作会社「アジア・コンテンツ・センター」(東京)の井上隆史専務は「日韓共同制作にも取り組みたい。韓国の成功に学びながら、日本のドラマ制作者のモチベーションを高めることにもつなげたい」と話している。