週刊ダイヤモンド2018年11月17日号の第1特集は「お得・旨い・テック 外食[新]格付け」です。テクノロジーによって外食産業が大きく変わります。特集では、「外食アプリ」の格付けから、店舗の厨房や客席における生産性革命まで、変わる外食産業の最前線に迫りました。
食べログ“飲食店課金”の波紋
食べログの予約サイトで「課金制度」が始まりました──。
今年6月、飲食店の張り紙とおぼしき画像が、ツイッター上で拡散されて話題になった。食べログ上の予約によって発生する予約手数料で利益が圧迫されることに対する店側の“悲鳴”だった。
この店に限ったことではない。最近、飲食店の経営者たちは「はっきり言って不愉快だ」と口々に食べログへの不満をぶちまけるようになった。
食べログは消費者による口コミや星での評価などを掲載する“本当にいい飲食店”を見つけるためのサイトとして、消費者から人気を集めてきた。
本誌が行った消費者アンケートでも、グルメメディアの中で総合満足率ランキングの3位にランクインしている。
消費者サイドの支持を集める食べログが、飲食店サイドから蛇蝎のごとく嫌われるようになった背景には、カネの流れの変化がある。ある飲食店経営者は「消費者の口コミを盾に、飲食店への課金ビジネスに突っ走っている」と吐き捨てるように言う。
食べログは現在、従来型の月額固定料金に従量料金を上乗せした、「新プラン」と呼ばれる契約体系を展開している。従量料金とは“手数料”として、ネット予約の人数に応じて課金されるものだ。
食べログが契約体系を新プランへ本格的に切り替え始めたのは2017年。同年6月時点で5000件だった新プラン契約件数は、翌18年6月には2万6000件と飛躍的に拡大した。
新プランでは、食べログ上での即予約システム(ウェブサイトでの予約がそのまま店舗の台帳に反映されるもの)を利用した場合、ディナーで1人当たり200円、ランチで同100円の手数料が発生する。
冒頭の張り紙騒動において、張り紙をした店は客に直接予約を求めていた。食べログを経由せず、店舗の電話番号に直接電話をして予約をした場合は手数料が発生しない。食べログに反逆し、中抜きを図ったのである。
食べログの原点は、消費者が本当に評価できる飲食店を探すためのサイトという立ち位置にある。
食べログが台頭してきた2000年代以前は、ぐるなびや現ホットペッパーグルメといった、飲食店側が販売促進の場として活用するメディアが主流であり、情報の発信者は飲食店側だった。
そのアンチテーゼとして05年に登場した食べログは、「口コミ」情報を主体にした。情報の発信者を消費者側にすることで、サイトの信頼性を高めていった。
そのビジネスモデルは、広告収入や消費者がプレミアム会員として支払う月額課金などを収益源の柱の一つとするものだった。
新プランを導入して以降、収益の軸足は飲食店側にさらに移っている。もともと、上位表示プランといった飲食店向け有料サービスは09年から登場しているが、食べログの飲食店販促事業による収益比率は16年度第1四半期が67%で、18年度第1四半期には77%まで拡大した。
アンチテーゼ的食べログが裏で店に課金
消費者の前ではアンチテーゼ的存在として振る舞いながら、裏では飲食店からカネを搾り取る──。食べログの業績をそう解釈する業界関係者は少なくない。
飲食店側の不信感は募るばかりだが、それでも「食べログの販促サービスを利用しないわけにはいかない」とある飲食店の店主。「そうしないと“表示順”が下げられるんだもの」。さて、これはどういうことか。
食べログには二つの検索表示が存在する。一つは「ランキング検索」と呼ばれる、口コミの星の数に基づいた表示順である。口コミによる星の評価は、その不透明さが度々話題になってきたが、基本は契約内容によらないで点数が決まるとされている。
もう一つの表示順は、「標準検索」と呼ばれるものだ。ここでは食べログの集客サービスを多く利用している、つまり基本的に高いプランを契約している店舗が優先的に掲載される。
利用率の高いスマートフォン上では、プレミアムサービスに登録している消費者しかランキング検索ができないなど、多くの消費者は標準検索に“誘導”されている。
この点について「食べログの口コミはあくまで強みの一つ」と話すのは、食べログ事業を担当するカカクコムの竹内崇也執行役員。「今や食べログの掲載情報の多さで利用しているユーザーも多く、飲食店からの課金と口コミの点数を絶対に連動させないポリシーを守っていれば、送客量に見合った対価をもらうのは当然のこと」と説く。
巨大な集客メディアとして成長した食べログを使うかどうかで、店の集客に雲泥の差が出ることは、多くの飲食店が認めるところだ。不満を抱こうが、食べログを使わざるを得ないのが実情である。
では、食べログは影響力を振りかざして暴利をむさぼる極悪非道と断罪すべきかといえば、事はそう単純ではない。彼らも生き残り策を講じることに必死なのだ。