相場英雄の時事日想:
最近、週刊誌や一般紙で“食品”の裏側にスポットを当てた企画や記事が増えていると感じるのは私だけだろうか。全国展開するファストフードやコンビニの台頭で、低価格な食品や食材が身の回りに溢れている。
当欄でも何度か触れてきたが、低価格、あるいは激安の食品には必ず理由がある。食品添加物がふんだんに盛られている、あるいは日本とは全く違う安全基準で生産された野菜を使用している等々だ。
改めて読者に問いかけてみたい。自分が口に入れている食品は真っ当なモノなのか。食べ物の値段について、自分なりのモノサシを持つことが肝要だ。
●週刊文春の「激安ニセモノ食品」特集
『クズ肉を固め、脂身、柔軟剤を注入した「成型肉」が大量流通 食中毒 発がんリスク』
『「激安ニセモノ食品」が危ない』
かなり刺激の強い見出しを掲げ、格安焼肉チェーン店各社を徹底取材したのが『週刊文春』(7月18日号)だ。
見出しにある「成型肉」について、同誌はこんな説明を加えている。
……このような加工肉は我が国でも珍しくない。約四十年前、牛肉の流通量不足を補うために日本で開発された「成型肉」がそれだ。当時、牛肉は高級食材だったが、捨てるようなクズ肉や牛脂を使って、庶民にも手が届くようにしたのである。例えば、スーパーなどで売られているサイコロステーキは代表的な成型肉だ。赤身肉と脂身が不自然に混じりあい、一目で人工的に作られた肉だと気付く……
●企業側の本音
『週刊文春』はこのほかにも最新技術で作り出された「結着肉」や「霜ふり加工肉」などに触れ、こうした食材を使う焼肉チェーン店を多数取材。多くの企業が実質的に取材を拒否した事実を掲載した。 私事で恐縮だが、この企画の冒頭に、私は『震える牛』(小学館文庫、WOWOW連続ドラマW)の著者・原作者として登場した。
自身が作品を執筆するにあたり、取材した食品加工業者の話を同誌記者に説明した。食肉を加工した身近で安価な食品群が添加物にまみれ、水などで文字通り“水増し”されていた事実だ。
当欄でも触れたが、同誌は中国での野菜生産の危うい実態を現地取材、こうした食材を使用している日本のファミリーレストランなどのチェーン店を実名で掲載するなど、このところ“食の安全”を熱心に追っている。同誌に触発されたのだろう。一般紙もこうした“激安訳あり食品”を取材し始めている。
同誌によれば、一連の企画は読者からの問い合わせや激励が編集部に届いているという。一方、報じられた企業からの抗議も多数に上ったという。中には法的手段をちらつかせる企業もあるようだ。
これは私個人の見解だが、今後同誌が一連の企画で訴えられることはないとみる。なぜなら、訴えた以上、同誌報道を覆すだけの“真っ当なデータ”を法廷で詳らかにしなければならないからだ。企業側としては、“早く嵐が過ぎ去ってほしい”というのが本音だろう。
●まだまだある裏側
『週刊文春』は格安焼肉チェーンのほかにも、「激安ニセモノ食品」の実態を取り上げるようだ。今後の徹底取材を1人の読者として待ちたい。
格安の食品はなくてはならない存在、細かいことを言っていたら生活できない……読者の間からは、こんな声が聞こえてきそうだ。
だが、立ち止まって考えてほしい。一般紙やテレビの報道の扱いは小さかったが、先月こんな発表が厚生労働省からなされたことを知っているだろうか。菓子パンなどにアルミニウム由来の食品添加物が使用されており、日本の基準が海外に比べ低かったことから、今後規制を強化していく、という内容だ。 私は驚いた。そもそもアルミ系の食品添加物があることすら知らなかったからだ。なにも考えずに関連商品を口に入れていたことを知った。こうした食品添加物は、長期間食べ続けることで健康を害するリスクがあるわけだ。日頃、当たり前のように口に入れている食品の裏側には、そこかしこにこんなカラクリが潜んでいる。
日頃外食する際、私は自分なりにこんなモノサシを使っている。貧乏学生だった私はいくつもアルバイトをかけもちしていたが、その中に小さな居酒屋があった。そこで教わったのは「原価3割」という格言。
客に提供するおつまみの原価は大雑把に3割、という比率があると教えられた(諸説あるので、あくまでも格言として)。
例えば、1杯数百円の丼モノだとすれば、原価はいくら。あるいは、200円程度のハンバーガーであれば、いくらになるのか、というモノサシだ。
スケールメリットを生かした食材調達で値段を下げるなど、企業側の努力もあろう。だが、原価3割の法則を当てはめて大まかな原価を知ると、私はどうしても格安、あるいは激安と頭につく食品には手が伸びないのだ。
多少(とはいえ、数百円から千円程度)値段が高くとも、ニセモノでない食材を口に入れたいと考えるのは私だけだろうか。
[相場英雄,Business Media 誠]