コロナ禍は社会のさまざまな局面で、従来の常識では考えられなかった変化をもたらした。それはホテルも同様で、宿泊者が激減する中、少しでも予約の流入を図ろうとする努力を積み重ね続けてきた。
コロナ禍とホテルといえば、身近なところでは供食スタイルの変化も見られる。例えば、朝食ブッフェ。多くの人が料理を自らピックアップする“ブッフェスタイル”はそのイメージからも忌避され、宿泊者も激減したことから「定食スタイル」へ変更するホテルが相次いだ。コロナ禍でホテルの朝食にも変化が(画像はイメージ)
だが、好きなメニューを思いのままにピックアップできるブッフェはゲストにとってもホテルにとっても魅力的であり、再開のタイミングが模索されていた。「ホテルにとっても魅力的」、というのは省人化をはじめとしたオペレーションの効率化などが図られる面があるからだ。
2021年に入り、次第にブッフェを再開するホテルが増えたものの、マスクの着用は当然として、ビニール手袋の着用や飛沫などから料理を保護するパネル、スニーズガードの設置はもはやデフォルトになっている。ホテルの努力という点では、料理の提供方法にも変化が見られる。
ブッフェでは、大皿やトレーに料理が盛られている光景が一般的だ。ただ、トングを使い回さなくてもいいようにと料理を小鉢に盛り、ひとつずつラップを掛けてあるのを見かけることも増えた。とあるホテルで朝食ブッフェを担当するスタッフに話を聞いてみると、かなりの手間と労力がかかっているといい、準備に相当の時間を費やしている話す。(画像はイメージ、提供:ゲッティイメージズ)
ホテルにとって朝食ブッフェの魅力は、省人化や効率的なオペレーションと前述したものの、朝食券などの受付にはじまり、返却台が用意されるケースもあるが、食べ終わった食器を下げたりセッティングしたりする必要がある。
また、ゲストが食器を返却台に戻すスタイルであっても、テーブルの消毒や料理の補充と、常に気配りが必要であることは想像に難くない。
前置きが長くなったが、そんな朝食ブッフェで最近気になったことがあった。
朝食自慢のホテルで起きたある変化
私には、以前からリピートしているビジネスホテルがある。そこは、朝食が魅力的なホテルで、味、種類、提供方法などに感心することが多々あった。また、スタッフのテキパキとした動きも好印象で、気持ちの良い朝食時間を過ごしていたものだ。
そのホテルもご多分に漏れずコロナ禍で宿泊者は激減。大打撃を受け一時ブッフェから定食へ変更、その後次第にブッフェへ戻っていた。ところが、以前とは少し様子が違う。(画像はイメージ、提供:ゲッティイメージズ)
手袋やスニーズガードの設置はあるとして、味やメニューは以前と変わらない。しかし、料理の補充が全く追い付いていないのだ。1品2品ではない。料理が無くなった大皿やトレーが目立つようになり、リピートしても、そうした光景が常態化していくように……。「料理がない」とゲストがスタッフを呼び止めるシーンも何度か目にした。
コロナ禍でスタッフを減らしているホテルがあることは時々耳にしていたので、こちらのホテルも同様なのだろうかと推測もしたが、やはり真相が気になりいくつかの運営会社へ取材を申し込むことに。
その中で、ホテル名は控えるが具体的な情報を開示してくれた運営会社があった。日本各地で30店舗ほど展開するホテルチェーンだ。(画像はイメージ、提供:ゲッティイメージズ)
コロナ禍で一定期間クローズした店舗も多く、自ら離職していった人もおり、経営的にも大変なことから「以前より人を減らしたのは事実」と打ち明けた。その上で、コロナ禍前より“フードロス”の問題を会社として大きなテーマにしてきたと話す。
「コロナ前はゲストから朝食終了間際に行ったら食べるものがなかったという指摘を避けるため、過度に盛り付けて提供していました」と担当者。
コロナ禍でのさまざまな運営環境の変化から、コスト削減とフードロス対策を兼ねて過度に盛り付けないようにしていた。また、朝食終了間際は小さいお皿に盛り付けて提供したり、喫食人数の少ない日は小鉢提供にしたりするなどして対策してきたという。筆者がみた“料理がなかった光景”はこうしたことも原因だったのだろう。
また、残った食材で弁当を作り従業員などへ販売することで、ロス削減と売り上げアップを両立させてきたという。
21年度のロス金額はおおよそ6分の1に減少
ロス対策前の19年度と対策後となる21年度を比較してみる。19年度の朝食ロス金額は6000万円ほどだったが、対策を進めたことで21年度のロス金額はおおよそ6分の1に減少。約30店舗を運営する会社なので、単純計算で1店舗あたり200万→30万~40万円に削減といった効果だろうか。
具体的な売り上げ・喫食人数・ロス金額は以下の通りだ。
年月 | 朝食売上(円) | 喫食人数(人) | ロス金額(円) |
---|---|---|---|
2019年度 | 8億4589万2838 | 112万675 | 6927万8378 |
2021年度 | 5億6199万9599 | 68万8038 | 1193万9715 |
コロナ禍で利用者数に変化があったことを考慮したとしても、その割合を見ればロス金額の差は歴然だ。実際の運営現場と数字については、具体的な利益なども含めて引き続き細かい分析ができればと考えている。
その一方、ロス減少による口コミ評価の変化も気になるところだ。鋭意リサーチ中だが、やはりブッフェ朝食付きで予約しても「料理がない」というゲストからの苦情の有無は注視していきたい。(画像はイメージ、提供:ゲッティイメージズ)
料理が並ばないブッフェとホテルにおける食品ロス問題・SDGsの浸透は、終局的には流通構造の変化ということになるだろう。運営現場単位では、適切なタイミングで料理を補充するといったようなマンパワーも含めた円滑なオペレーションの一体化は不可欠と指摘できる。そうしてはじめて相乗効果を生んでいくことは間違いなく、まだまだ時間が必要なテーマといえる。