食品・飲料、コロナ影響下での意外な「売れ筋」 乳製品やアルコール類が打撃を受ける一方で

新型コロナウイルスの拡大を受け、政府は2月27日に小中高校などに対して臨時休校を要請した。突然の要請に混乱する学校関係者は少なくないが、その余波は食品事業者にも及んだ。

臨時休校で行き先を失った学校用牛乳は1日約1900トン、国内の牛乳生産量の約1割にのぼる(農林水産省)。そのため、農林水産省は3月2日からホームページで新型コロナウイルスに関するページを開設し、消費者に対し牛乳や乳製品の積極的な飲食を促している。

酪農家など地域生産者団体は、大手乳業メーカーへの受け入れを要請した。これを受け、明治ホールディングスや森永乳業、雪印メグミルクは、チーズやバターなどの加工用として受入要請の増加に対応している。

■今は耐えているが、綱渡りの状態

ただ、加工用の生乳の価格(取引価格)は、飲用向けのものより安く、約3割の価格差がある(補給金を除く)。加工用の使用が増えると、酪農家の収入は減少する。メーカー側にとっても、生乳タンクなど余剰分を保管する容量にも限りがある。「廃棄されないよう、できるだけ家庭で飲んでもらえるように需要を喚起するしかない」と、北海道の農業組合・ホクレンの広報担当者は声を落とす。

農水省は加工用に使用した場合の差額の補てんなどについては、「今後の需給を見て検討する」という。ホクレンは「今はなんとか耐えているが、綱渡りの状態。収入の減少分を補助してもらえるよう、酪農団体全体で政府に訴えていきたい」と話す。

加工用として受け入れている乳業メーカーの動向も注視が必要だ。外国人観光客の減少により、森永乳業はおみやげ用の菓子などに使われる乳原料の需要が急減している。

また、外出控えの影響で飲食店を利用する人が減っており、これによりデザート用クリームなど加工乳製品も需要が落ち込んでいる。生産者団体から受け入れたものの、在庫が過剰になってしまう懸念があるわけだ。

一方で、新型コロナウイルスの影響で、需要が急増している商品もある。乳酸菌入り食品の売れ行きは好調だ。

明治ホールディングスの主力商品である乳酸菌飲料「R-1」は、販売数の漸減が続いていたが、2020年1月後半から販売数が急増し、2月単月では前年比で10%超となった。明治ホールディングスの広報担当者は「各メディアやネットで、免疫力向上アイテムとして取り上げられたことが需要増に繋がった」と語る。

森永乳業も、乳酸菌ブランド「シールド乳酸菌」の販売が伸びている。雪印メグミルクでも2月のドリンク、ヨーグルトの販売は、ともに前年比を超える売れ行きだった。

国内で販売数量が漸減していたヤクルトも、2月単月で前年を上回った。ただ、ヤクルトは海外のうち最も構成比の高い中国で売り上げが低下。中国の2月販売数量は、前年比で約1割減少した。

■アルコール飲料は飲食店も小売店も苦戦

牛乳と同じく需要が急減したのはアルコール飲料だ。アサヒグループホールディングスやキリンホールディングスなど大手飲料メーカーは2月後半以降、飲食店向けアルコールの売れ行きが低迷しているようだ。

【2020年3月6日9時35分追記】初出時、アサヒグループホールディングスの社名に誤りがあったため、修正しました。

状況は小売店も同じだ。2019年12月に上場した都内を中心にアルコール飲料などを配達するカクヤスは、売り上げの約7割が飲食店向けで、3割が家庭向け。今回、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、飲食店でのキャンセル増加が販売を押し下げているという。

政府が2月26日にイベント中止などを呼びかけるまではアルコール需要があったため、販売面への影響はなかった。だが2月下旬から、大口顧客である大手居酒屋チェーンで団体客のキャンセルが相次いだ。

カクヤスは歓送迎会や花見のシーズンである3月が年末に次ぐかき入れ時だが、東京都が花見シーズンの宴会自粛を呼びかけたこともあり、この時期の需要が落ち込む懸念がある。「『花見をしよう』と言い出しにくい雰囲気になってきた。家でお酒を飲む人は増えているが、大勢で飲む時と比べれば消費量がどうしても減る」(カクヤス広報担当者)。

だが、カクヤスで需要が急増している商品もある。同社は米などの食品も配達を手がけており、1月の家庭用の米の配送依頼が前年比で2割増となった。2月29日と3月1日の週末は、「通常の営業日の5倍の量が売れた。生活防衛意識が高まっているのか、普段にはない異例の動き」(広報担当者)という。チラシなどを活用して、食品も扱っていることをこれまで以上にアピールするという。

酒造大手のオエノンホールディングスにも、意外な需要が発生している。宴会自粛やホテル利用者数の減少を受け、アルコール飲料の販売数量が落ち込んでいる。一方で引き合いが強いのが工業用アルコールだ。

オエノンは傘下に工業用アルコールを生産する合同酒精を擁しており、グループ全体の売上高の約1割を占める。工業用アルコールは、消毒用アルコールなどにも用いられる。

【2020年3月6日9時35分追記】初出時、工業用アルコールの用途での記載に誤りがあったため、上記のように修正しました。

■それでも十分に出回っていない

工業用アルコールの1月、2月の販売量は前年比で約2倍に膨らんだ。オエノンの広報担当者は「消毒用アルコールに使う製剤会社からの引き合いが多い」と話す。

原料の製造能力には、まだ充分な余力がある。オエノンでは他社からの引き合い増を視野に、昨年10月に静岡県清水にアルコール蒸留設備を新設し、生産能力を2倍超に増強したばかり。

ただ、「輸送に使うタンクローリーや商品容器が不足しているのでは」(広報担当者)と、消毒用アルコールが十分に市場に出回らない状況を歯がゆい思いで見つめる。

新型コロナウイルスの拡大による食品事業者への影響はさまざま。コロナ問題が収束する時期が見えないだけに、全体にどの程度影響を与えるかは、予断を許さない状況だ。
 

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