食用油、大豆、小麦、肉、卵の「値上げ」が連鎖! 背景にある中華料理の“爆食い”と不作

今年に入って食用油、大豆、小麦、コーヒー、卵、肉などの値段が上がっている。

 食用油は今年3度も値上げを行っており、家計・外食共に影響が大きい。大豆と小麦は米国の干ばつ、コーヒーと砂糖はブラジルの寒波と、海外の不作が影響している。大豆の場合、大豆油が石油代替品としてバイオ燃料に使われるケースが増えており、中長期的に見て下がる要素が少ない。

 サラダ油、キャノーラ油などと呼ばれる食用油を値上げする背景には、海外の旺盛な需要拡大がある。中国は新型コロナウイルス感染症の影響から回復基調にあり、外食産業が盛り上がっている。中国や欧米は基本、経済に関してコロナ禍中を抜けてアフターコロナに移行しており、日本と事情が異なる。特に中国の場合、アフリカ豚熱からの回復で豚肉の需要が急伸するという特殊な事情が重なる。輸入に頼った商品の場合、国際的な需給の影響を強く受ける。

 物価の優等生といわれてきた卵は、国内の鳥インフルエンザの影響が出た。食用油と卵が値上がりしたので、マヨネーズや菓子の値段も上がる傾向にある。

 明治安田生命が3月にインターネット調査を行ったところ、4割近くの人がコロナ禍で収入が減ったと実感している。長期化するコロナ禍にあって、家計に厳しい秋を迎えそうだ。

●中国では経済が回復

 食用油は今年既に3回も値上げをしていて、価格高騰の深刻さが増している。

 日清オイリオグループは、家庭用・業務用・加工用を問わず、4月に1キロあたり20円以上、1斗缶あたり300円以上を値上げ。6月から1キロあたり30円以上、1斗缶あたり500円以上を再値上げした。それでも原料価格の高騰が止まらず、8月から1キロあたり50円以上、1斗缶あたり800円以上の再々値上げに踏み切っている。

 昭和産業、J-オイルミルズも同様に3回値上げした。家庭のみならず、飲食店、弁当・総菜店にとっても欠かせない食用油だけに、広範囲に影響が出るのは必至だ。

 植物油とその主要原料の1つである大豆が高騰している主因は何か。日清オイリオグループと農林水産省は共に、中国経済の新型コロナからの回復を挙げる。

 日本貿易振興機構(JETRO)が、2020年11月11日に発表した「コロナ後における中国内陸部の最新動向」は、四川省の人口1600万人を超える省都・成都市における昨年秋の状況をレポートしている。そのレポートによると、大半の市民がマスクを着用していない。市民はマスクをポケットにしまって携帯するか、マスクのゴムを肘に通してぶら下げながら携帯する「肘マスク」が定着している。市内の大型商業施設、飲食店はほぼ通常営業となっている。中国全土に店舗展開する大手日系飲食店によると、昨年8月の成都店舗の売り上げは前年同月を超えた。名物の火鍋料理の人気店には、平日から大勢の客が行列をつくる日も多いという。

 内陸部の成都がもう半年以上も前にここまで回復しているのだから、今では沿岸部においても同等くらいには回復、活性化している都市も多いのだ。

●料理にたくさんの油を使用する中国

 中国で食用油の需要が盛り上がっている背景には、このように人口14億人を抱える全土で外食がV字回復して、油をジャンジャン消費していることがある。中華料理は油を使う。中国は国内でも大豆を作っているが、ブラジル、米国などから大量に輸入、爆買いしているのだ。

 また、コロナ禍で厳しく外出制限された反動だけではなく、食に貪欲な中国人のテンションが上がる重要なことが起こっている。アフリカ豚熱が収束して、養豚が回復してきているのだ。そのため、豚肉が再び日常的に食べられるようになった。アフリカ豚熱は、豚や猪がウイルスによって感染する。発熱、全身からの出血を伴う病気で、致死性が高く、ワクチンもない。養豚業者にとって悪夢のような病気だ。

 中国人にとって、豚肉が食べられない事態はとてもつらい。18~19年にかけて、中国ではアフリカ豚熱の流行によって、豚の飼育頭数が半減したといわれている。しかし、20年には壊滅的な打撃から急速に回復して、ほぼ流行前に戻してきた。

 中国ではコロナ禍からの解放感と、豚肉が食べられる喜びで、外食のみならず家でも食用油を気前良く使って料理している。

●鳥インフルエンザの影響

 このような事情だから、豚肉、牛肉、鶏肉といった家畜の飼料の国際価格は、過去最高の水準となっている。そして、飼料の原料となる、大豆、トウモロコシ、小麦の価格が高騰する要因の1つになっている。特にトウモロコシは、配合飼料の半分ほどを占めているので、影響を受けないわけがない。

 また、小麦、大豆、トウモロコシは、今夏の米国中西部から西部の大干ばつの影響も出てきている。50年に1度といわれた14年の干ばつをも上回るとの説も出ている。特に、秋に収穫する小麦の収穫が厳しい見通しだ。

 JA全農では、7~9月期の配合飼料供給価格を、4~6月期に対し、全国全畜種総平均で1トンあたり4700円値上げしている。

 従って、中国の豚肉需要が急速に高まると、飼料と食用油が逼迫(ひっぱく)する。飼料が上がると、豚肉、牛肉、鶏肉の卸値が輸入・国産を問わず上がる。豚肉、牛肉、鶏肉の小売価格も上がる。乳製品や卵にも波及する可能性もある。値上げは連鎖するのだ。

 食用油の主たる原料は、大豆、菜種、パームである。大豆が逼迫すると、菜種とパームも連鎖的に需要が増えて供給がタイトになるということで、広範囲に物価が上がる。

 鶏肉と卵に関しては、別の要因がある。国内の鳥インフルエンザの影響が大きい。昨年11月からの大流行で、今年5月までに約987万羽が殺処分された。高病原性鳥インフルエンザに罹患した鳥類の致死率は50%以上に上り、養鶏場に大きな打撃を与える。今回、国内では過去最大の鳥インフルエンザの流行が起きた。これまで最大だった10~11年の流行では約183万羽を殺処分していたので、5倍以上の規模であった。

 そのため、物価の優等生と呼ばれる卵の価格も1.5~2倍近くに上がった。現状は卸値で2割ほど下がり、鳥インフルエンザも収束して、落ち着きを取り戻してきている。

●ブラジルの寒波がコーヒー豆と砂糖を直撃

 コーヒー豆と砂糖には、ブラジルの寒波が影響している。ブラジル南部のミナスジェライス州は、コーヒー、アラビカ種の主産地だが、7月には亜熱帯にもかかわらず霜が降りた。これは非常に珍しいことだ。コーヒーにとっては厳しい環境で減産を余儀なくされ、ニューヨーク先物取引所で7年ぶりに1ポンドあたり2ドルを超えた。今は少し落ちついているが、高止まりしている。

 このため、UCC上島珈琲が9月から家庭用コーヒー豆の値上げをすると発表。店頭価格は2割上がる。キーコーヒーも同様に10月から2割上がる。

 ブラジルは砂糖の原料の1つであるサトウキビの大産地でもあり、ミナスジェライス州のすぐ南にあるサンパウロ州が主たる産地だ。寒波による霜の被害は、サンパウロ州にも及び砂糖の価格も上がっている。

●影響は加工食品にも

 このような原料高によって、加工食品も上がっている。キユーピーと味の素はマヨネーズを8年ぶりに値上げした。マヨネーズには食用油や卵が原料に入っている。

 キユーピーは7月納品分から、主力のマヨネーズで2~10%ほどの値上げをした。

 味の素も7月納品分から家庭用と業務用の「ピュアセレクト マヨネーズ」などマヨネーズ、マヨネーズタイプで、1~10%の値上げに踏み切っている。

 雪印メグミルクは10月出荷分から、原料に食用油が入っているマーガリンやホイップなどの製品で1.9~12.2%の値上げをする。「ネオソフト」(300グラム)で290円から320円ほどになる。

 山崎製パンも10月出荷分から、食用油、卵、砂糖などの高騰を受けて、和洋菓子8種で値上げを決めた。「北海道チーズ蒸しケーキ」「豆大福」などの和菓子は平均6.5%、「まるごとバナナ」「苺のショートケーキ」などの洋菓子は平均7.4%だ。

 これらは氷山の一角で、このまま原料の高値が続くとさまざまな商品の値段が上がると目される。

●バイオ燃料としての需要

 食用油の主たる原料は、大豆、菜種、パームだが、サトウキビ、小麦、トウモロコシと共通する永続的な価格高騰の要素がある。これらは、石油から精製した軽油やガソリンの代替品として、バイオ燃料であるバイオディーゼルやバイオエタノールの原料にもなるのだ。

 バイオ燃料を燃焼すると、温室効果ガスとされる二酸化炭素を排出する。しかし、植物は光合成を行って二酸化炭素を吸収するので、石油のような化石燃料とは違って地球温暖化に寄与しないとされる。また、化石燃料は枯渇の心配があるが、植物は非枯渇の資源だと考えられている。

 しかし、これらの作物は先物取引の対象になっていることから分かるように、天候に左右され、災害の影響をどうしても受けてしまう。一方、気象条件が例年より良ければ、採れ過ぎてしまう時もある。石油のように一度掘り当てれば、数十年は安定的に供給できる性質を持ち合わせていない。

 つまり、いくらエコだからといっても、人が食べていくために必要な食品を石油に代替させるという発想自体に「持続可能なのか?」という問題がある。

 実際、石油の価格が高騰すると、バイオ燃料で代替させようと、これらの価格も上がる傾向が出ている。欧米を中心にコロナ禍からの回復によって、経済が活発化し、輸送が伸びることで原油の価格も上がっている。非接触を求めて、人々が移動に電車より車を使う傾向が高まったこともあるだろう。レギュラーガソリンの価格は、昨年5月に1リットル105円くらいまで下がったが、今は155円あたりまで上がっている。

 皮肉なことに、地球温暖化を止める、環境にやさしい社会に世界がシフトするほど、食料品の価格が継続して高騰するリスクがある。

 また、直近は新型コロナの影響で、世界的に生産や輸送にかかわる人員が確保できずに、出荷が滞っている一面もある。

 メーカーだけでなく、スーパーや外食も企業努力で極力、値上げしないで頑張ろうとする。しかし、利益が圧迫されるので、最終的に価格を上げるか、サイズを小さくして販売するしかなくなってくる。

 それにしても、人間の新型コロナだけでなく、豚のアフリカ豚熱、ニワトリの鳥インフルエンザと、ウイルス感染症の影響は甚大だ。異常気象の影響も日本のみならず、世界に及んで食品の価格を押し上げている。食糧問題の根の深さを痛感する。

(長浜淳之介)

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