以前から問題視されていた飲食店の無断キャンセル。年間で約2000億円にも及ぶとされる損害額にストップをかけるべく、飲食業界がある指針を示した。指針をまとめた資料の表紙には、飲食店における無断キャンセルを示す「No show」の文字があった。
注目すべき中身は、今後飲食店で無断キャンセルをした客に対し、損害賠償としてキャンセル料を請求することが書かれていた。コース料理など事前に支払い金額が決まっている場合の無断キャンセルに対しては「全額の請求」、来店をしてから注文をする席だけの予約に関しては「平均客単価の5~7割」をキャンセル料として請求するという。
また、対策による損失解消は「飲食店・消費者双方の利益になる」と説明。飲食店への予約が容易になり、サービス水準が向上することによる消費者への利益還元。品質向上による顧客獲得、設備導入のための資金確保といった飲食店への利益還元。さらに、給料アップ、設備投資による労働時間の削減といった飲食業従事者への利益還元も期待できるという。
これまで、損害を受けても泣き寝入りをしていた飲食店側。そんな彼らが考えた対抗策に対して、ネットでは「そもそもの予約が偽名など嘘情報だったらどう対応するの?」「幹事する人にとってシビア。ドタキャンとかのリスクを1人で被ろうとする人も中にはいるだろう」「どのようにキャンセル料を請求するのかといった課題はある」といった声があがっている。
これらの指摘通り、今回の対策内容には「店側に予約客への事前説明やキャンセルの連絡をしやすい仕組みの整備が必要」とも盛り込まれている。今後「無断キャンセル対策推進協議会」を設立し、問題の解決に向けた取り組みを本格化させるという。
客側のモラルも問われる無断キャンセル問題。1日放送の『AbemaPrime』では、実際に対策を実施することは可能なのか、対策が飲食店業界にどのような影響を与えるのかを飲食店の声も踏まえ考えた。
■25人ドタキャンの被害店長「着信拒否されて連絡が取れなくなったら…」
西川研一弁護士によれば、飲食店も利用規約があるホテルや飛行機と基本的には同じで、口頭で予約をした時点で契約は成立。無断キャンセルの場合は、立証が必要だが損害賠償を請求できるという。
実際に無断キャンセルの被害にあった、東京・文京区の「それゆけ!鶏ヤロー!白山店」。店長の楠見光祐さんによると、「10月に25名の団体で1人2000円のコースがドタキャンになった。当日電話したが着信拒否されていて音信不通になった」という。料理はすでに卓に置いていたため廃棄。さらに別の店舗では、70名の無断キャンセルがあったそうだ。
今回の無断キャンセルに対する指針について楠見さんは「とてもいい指針だと思う」としつつ、「実際、着信拒否されたら連絡が取れない。自分で調べるとなったら弁護士を使ったりして、時間も手間もかかるので店側はマイナスになる。現実的には難しい」と被害の立証に懸念を示した。
そもそも、無断キャンセルはどうしたら防げるのか。東洋経済オンライン編集長の山田俊浩氏は「お店側が防衛的なことをやれないのかなと思う。それが大変なのであれば、間に立っているホットペッパーやぐるなびなどの仲介サイトが、チェック機能を働かせるというサービスにするのも手」と意見。
慶應義塾大学特任准教授の若新雄純氏は「ホテル業界のキャンセルの泣き寝入りがなくなったのは、ネット予約が大きいと思っている。ホテルに直接電話をするよりも『楽天トラベル』を通した方がちょっと安くなるということで使うが、その時は事前にクレジットカードを登録していないと予約できない。飲食店も『事前にクレジットカードで予約すると割引になる』ということなら使うだろう。そうすればクレジットカードからキャンセル料が引き落とせて、泣き寝入りがなくなる」と述べた。
また、若新氏は利用者側のモラルの観点に言及。「モラルが欠如したというよりも、人間を信頼しすぎるのが良くない。無断キャンセルをしてもあまり罰せられないということで、人間の悪いところが出る。自動車がたくさん走っていても交通事故や危険運転が比較的少ないのは、モラルというよりは交通ルールや法令がすごく厳しいから。罰せられないと人間は逃げる」と指摘した。