飲食業界で繰り広げられるフライドポテト争奪戦 囁かれる“7月危機説”

フジテレビ系列のニュースサイト「FNNプライムオンライン」は2月4日、「【速報】日本マクドナルド『マックフライポテト』M・Lサイズの販売再開 7日から」との記事を配信した。

 記事はYAHOO!ニュースのトピックスにも掲載された。速報で報じられたことからも、読者の関心の高さを物語っている。担当記者が言う。

「マクドナルドが最初にMとLサイズのポテトの販売を休止したのは、昨年の12月24日から30日。31日から再開したのですが、再び1月9日から約1カ月間、休止すると発表していました」

 日本マクドナルド広報部に取材を申し込むと、「コロナ禍で物流の混乱とカナダのバンクーバー港での水害、航路上での悪天候など不測の事態が重なったことが原因でした」と言う。

「弊社のマックフライポテトは北米やカナダ産のジャガイモを使い、アメリカやカナダの国内の工場でマックフライポテトにカットし冷凍しています。冷凍品をタコマ港・シアトル港からコンテナ船で日本へ運びます。農場からタコマ港やシアトル港までの物流は問題なく、工場も稼働しています。コンテナ船はタコマ港やシアトル港を出航すると、次はバンクーバー港へ立ち寄ってコンテナの積み下ろしを行います。ところが、バンクーバー港が大規模な水害などの影響でフル稼働できず、物流が滞留して遅延が発生してしまっている状況です」

 タコマ港やシアトル港で積んだフライドポテトが、バンクーバーで止まってしまった。マクドナルドは早速、航空便を使って日本へポテトを空輸した。

 だが、飛行機とコンテナ船では輸送量の桁が違う。需要を満たせるだけのフライドポテトを運ぶことができず、MとLの販売を休止せざるを得なくなったのだ。

ポテト争奪戦

 一難去ってまた一難。バンクーバー港における物流滞留に続き、今度は記録的な寒波が襲来。やはり港湾の物流が滞ったほか、悪天候でコンテナ船の航行にも支障が出てしまった。

「アメリカ西海岸の航路だけでポテトを輸入していましたので、今回東海岸から輸送する航路も確保しました。今後供給元や輸送ルートの開拓など新たな仕組みの構築をはかり、再びこのようなことが起きないようにしたいと考えております」(同・日本マクドナルド広報部)

 世界の物流に詳しい専門家は「今、日本の飲食業界では、フライドポテトの争奪戦が繰り広げられています」と解説する。

「マクドナルドさんに限らず、他のハンバーガー店や居酒屋でも、フライドポテトは人気です。特にアメリカ産やカナダ産のジャガイモを使った商品は大きくて長いので、日本人がイメージするフライドポテトにぴったりです。ところがコロナ禍による人手不足で、物流の混乱が続いています。トラックの運転手も、港湾の労働者も、全く足りていないのです。抜本的な改善にはほど遠いと言わざるを得ません」

モスは販売見合わせ

 マクドナルドほどの巨大資本ともなれば、農場から工場、工場から港という陸路の物流は全く滞っていない。

 そして前述の通り、バンクーバー港でトラブルが発生すると、船便から航空便に切り替えた。船便に比べると、航空便の運賃は15倍もするという。他社であれば、とても負担できないコストだろう。

 一方、モスバーガーを展開するモスフードサービスは2月9日、全国の店舗で「フレンチフライポテト」の販売を一時見合わせると発表した。

 毎日新聞が記事を配信すると、こちらもYAHOO!ニュースのトピックスに掲載された。やはり世界的な物流停滞が原因であり、販売の再開は3月中旬を見込んでいるという。

 テレ朝NEWSは2月18日、「ロイヤルホスト フライドポテトの販売 一時休止へ」との記事を配信した。ロイヤルホストの場合、販売の再開時期は「未定」だという。

 これらのニュースからも、フライドポテトの争奪戦が熾烈なものになっていることがよく分かる。

「北米産のフライドポテトが手に入らないため、最近はヨーロッパ産の需要も伸びています。こちらは小さくて黄色に近い色をしているので、従来は人気がありませんでした。贅沢を言っていられないので注文するわけですが、入荷が遅れているのは北米産と変わりません。ヨーロッパ産フライドポテトでも争奪戦が起きているのです」(同・専門家)

港湾ストの可能性も

 トラック運転手や港湾労働者だけでなく、意外なことにコンテナの絶対数も足りていないという。

「世界中で使われているコンテナの90パーセント以上が、中国で作られています。ところが、コロナ禍で物流が止まったり、コンテナを作る工場が操業停止になったりしたため、コンテナの新規製造が減少してしまったのです。オミクロン株が猛威を振るっているとはいえ、今は世界中の国が経済を回そうと方針を転換しました。急激にモノが動き出したのに、それを運ぶコンテナも足りないのです」(同・専門家)

 更に今年2022年は、もともと物流関係者にとっては頭の痛い年だという。

「アメリカ西海岸の港湾労働組合は6年に1回、労働契約を更新します。今年はその更新年に当たっているのです。2002年には労使の交渉が決裂し、実に20を超える港が閉鎖されました。2014年はストには至りませんでしたが、故意に作業量を減らす“スローダウン戦術”が採られ、物流が大きな打撃を受けました」(同・専門家)

7月に労働争議が起きるリスク

 週刊エコノミストOnlineは2021年11月22日、丸紅経済研究所チーフ・エコノミストの井上祐介氏による署名記事、「米経済の足を引っ張る物流目詰まり 来年7月には西海岸港湾スト期限が……」を配信した。

《米西海岸の29の港湾の船会社70社超やターミナルオペレーター(運営事業者)などの使用者側を代表する米太平洋海事協会(PMA)と約1万5000人の労働者が加盟する国際港湾倉庫組合(ILWU)が現協約の期限である7月までに交渉を行う。02年には改定交渉が決裂し、ILWUが意図的に作業遅延を行ったとしてPMAが港湾封鎖に踏み切り、大混乱となった》

 東京海上日動火災保険も21年5月21日、「TOKIO MARINE Topics(物流関連速報)」を配信、「北米の港湾における労働争議リスクの増大」と注意喚起を促した。

《西海岸の港湾では、過去の労働協約更新の度に紛争が生じており、2002年や2014〜2015年に大規模な労働争議があり物流が混乱しました。来年、2022年7月に迎える更新においても、特に、ターミナルの自動化を巡って労働争議が生じることが予想されています》

 もし今年、ストやスローダウン戦術が採られると、確実に世界中の物流に支障が出る。その中にフライドポテトが含まれていることは言うまでもない。

物流の混乱は続く!?

 世界銀行は1月11日、「世界経済は減速する」との見通しを発表して大きな注目を集めた。成長を阻害する要因の一つとして、物流の混乱を挙げた。

「フライドポテトだけでも、これほどの影響を受けるのです。半導体の不足が大問題になっているのは報道されている通りです。今後も予想される物流の混乱は、世界経済にダメージを与えることは間違いありません」(同・専門家)

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