首都圏新築マンション平均価格「6702万円」の衝撃 住宅ジャーナリストが読み解く高値の“カラクリ”

18日、不動産経済研究所が発表した2021年度上半期(4~9月)の新築マンションの平均価格は1都3県で6702万円という驚きの価格となった。前年同期比で10.1%増。1973年の調査開始以来、上半期として過去最高額だという。もはや庶民が手を出せないほどの価格となった首都圏の新築マンション。なぜこんなにも高いのか。一体どういう層が購入しているのか。35年以上にわたりマンション市場を分析してきた、住宅ジャーナリストの榊淳司氏に緊急寄稿してもらった。

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 首都圏で、マンション価格の上昇が続いている。

 6700万円といえば、20年前ならかなりの高級マンションである。庶民にはちょっと手が出ない水準だ。

 なぜ、マンションの価格がここまで上がるのか。その答えをズバリと言ってしまえば「買う人がいるから」ということになる。

 ただ、それでは身もふたもないので、私なりに背景を分析してみたい。

 価格上昇の第一の原因は土地の価格が上がったからである。

 マンションデベロッパーに事業用の開発用地をあっせんしている仲介業者のところには、毎日のようにデべの仕入れ担当が「いい物件ありませんか?」と顔を出すそうだ。彼らは事業用地を喉から手が出るほど欲しがっている。しかし、市場には値がつり上がった土地しか売り出されなくなっている。

 その仲介業者が私にこう話してくれた。

「彼ら(仕入れ担当者)は異口同音に『社内のやりとりは“神学論争”のようです』と言いますね」

 どういうことか。

 マンションの開発用地になり得るような土地は、その時点の市場から考えると価格が高すぎて手が出ない水準になっている。しかし、それを買わないと、デベは翌年の開発事業が行えない。そして、彼らが買わなくても競合する同業他社が買うことは目に見えている。

「これを買わないと来年売るものがありません」

 デベ担当者は、最後はそんな殺し文句で上司を説得する。

「こんな値段で買って、売れるのか?」

 当然、そんな問いが返ってくる。

「今の市場の勢いから考えて、売れるはずです」

 そこには何ら理論的な根拠はない。でも、そうとでも言うしかない。このやりとが、まるで「神学論争」だというわけである。

 そうやって高値で仕入れた土地でマンションを開発して、約1年後に販売を始める。当然、販売価格は1年前の市場価格より高い。だからスムーズには売れない。

 ところが、そういう物件でも立地が都心やその周辺エリアだと、時間をかければなんとか売れてしまうというのが現状だ。

 では、都心やその周辺の高値マンションを誰が買っているのか。主に2つのグループに分かれる。

 まず、都心で1億から数億円になるような高額物件を買っているのは、富裕層と外国人である。彼らは「住むため」というよりも、趣味や投機で購入する。だから、都心のタワーマンションなどは、建物が完成しても誰も住んでいない住戸が多い。

 富裕層たちはコロナ禍によって、この2年間、海外旅行ができていない。だから趣味で高級外車を購入したり、高級腕時計を買いあさったりしている。同じような感覚で「都心にもう一部屋マンションを買うか」と購入を決める。そのように趣味で購入した人は、セカンドハウス的に利用するケースもあるが、投機で購入した場合は、値上がりすればすぐに売れるように空室のまま保有する。だから誰も住んでいないのだ。

 もうひとつは、パワーカップルと呼ばれる若年ファミリー層。世帯年収が1400万円を超えている小家族である。彼らが夫婦で住宅ローンを返済するペアローンを組んで、7000万円から1億円程度の物件を購入している。金利が史上最低の今なら、年収の7倍程度の住宅ローンを組むことができる。

 パワーカップルたちは、特に湾岸のタワマンなどを好んで購入する主力層になっている。彼らは「住むため」に買っているので、建物が完成すると入居する。

 今の高学歴カップルはダブルインカムが普通になったので、世帯年収が1千万円を超えることが珍しくなくなった。彼らの購入力向上は、ここ数年のマンション価格高騰を支える基盤のひとつと言ってもいい。

 マンションデベロッパーの仕入れ担当者に取材すると、都心エリアにおける土地価格の上昇基調は現在も変わらないという。

 実のところ、コロナが始まる直前の2年前には「そろそろ天井か」という空気が不動産業界に漂っていた。当初は2020年夏に東京五輪が開催される予定で、それが終わると「祭りの後」である。2013年以来続いたマンション価格の高騰も、そこでいったん終了すると私も予測していた。

 ところが、誰もが予測しえない事態が起こった。言うまでもなく新型コロナの感染拡大である。

 2020年春、緊急事態宣言が出されて経済活動が急速に収縮した。不動産市場もフリーズ状態となる。業界の誰もが「ここから下落が始まる」と覚悟した。

 ところが、さらに予想外の事態が生じた。それはかつてない規模で実施された政府の景気対策である。3回にわたって補正予算が組まれ、その規模は累計76兆円にも及んだ。

 国民1人あたり10万円が配られた特別定額給付金は、大半が生活費や貯金に回ったとされる。しかし、最大200万円の中小企業向け「持続化給付金」や数十兆円も確保された企業への融資枠は、その多くが株式や不動産市場に流れ込んだ。

 私の周辺の不動産業者たちも、民間や政府系金融機関から目いっぱい融資を引き出して物件購入に走った。それがちょっとしたバブル現象を引き起こしながら、今に至っている。

 デベロッパーはさらに値上がりした土地を仕込んでマンションを開発する。その販売価格は当然、コロナ前よりも高くなっている。

 値上がりは東京都心だけではなく、近郊や郊外にも及び始めた。ただし、マンションの売れ行きは都心エリアではそれなりでも、郊外へ行くほど悪くなる。郊外の大規模物件などは、軒並み販売不調に陥っている。

 その理由は、個人所得の減少にあると言ってよい。国税庁は2021年9月に「令和2年分民間給与実態統計調査結果」を発表した。それによると同年の平均給与は433・1万円となり、前年比でマイナス0・8%、金額で3・3万円減少している。減少は2年連続。ここ20年で見ても、緩やかに減少している。

 つまり、給料は増えないのに消費税とマンション価格は上昇しているのだ。郊外で子どもを育てるファミリーのほとんどは可処分所得を減らしている。値上がりしたマンションは欲しくても買えない状態だ。

 高くなっても買う人がいる都心や近郊では、マンションがどんどん値上がりしていく。しかし、買うにも買えない普通の人々が暮らす郊外では販売不振。これが今の首都圏のマンション市場の現実である。

 景気対策で潤沢に供給されたマネーは、今も都心の不動産バブルを膨らませている。これは景気の悪化や、緩み切った金融の引き締めでも起こらない限り終わらないだろう。

 しかし、「住むため」にマンションを買う人が市場の主役である郊外では、時間が経過するとともに値引きや値下げで価格を調整せざるを得ない。

 そして、やがてはマンション市場にも「コロナ後」がやってくる。供給されたマネーは徐々に回収されるだろう。また、アメリカの金利上昇は、日本の市中金利にも影響すると思われる。

 そうなれば2013年以来続いてきたマンション価格の上昇も、いよいよ終わりを告げるかもしれない。(住宅ジャーナリスト・榊淳司)

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