立っている人のすぐ脇を急ぎ足で駆け上がる――。
エスカレーターでよく見る光景だが、JR東日本では今夏から、駅のエスカレーターでは歩かないよう求める異例の呼びかけを始めた。利用客がぶつかって転ぶなどの事故が後を絶たないためだ。鉄道各社も注目しているが、通勤ラッシュ時は急ぐ人のために「片側を空ける」という暗黙のルールがすっかり定着しており、「歩行禁止」を広めるのは容易ではなさそうだ。
◆ステッカーで啓発
JR東日本では、利用客がエスカレーター上でけがをする事故は年間約250件に上っている。今年5月には、東京都内の駅で松葉づえを持った中年男性が、横をすり抜けた利用客にぶつかられて転倒、頭などを打撲した。昨年9月には、都内の別の駅で高齢男性が急ぎ足で駆け降りていたところ、転んでエスカレーターの下まで落ちてけがをする事故が発生した。
こうした状況を重く見たJR東日本は、エスカレーター上での「歩行禁止」を打ち出した。7月から「歩かない」などと記したステッカーを管内のエスカレーター全1770台付近に貼り、啓発運動に乗り出した。
しかし、利用客の間で「歩行禁止」が浸透したとは言えない。ラッシュ時を迎えた平日夕方のJR新宿駅。エスカレーター左側には、立ち止まって乗る人の列ができ、右側のスペースを急ぎ足の利用客が次々と歩いていく。足腰が弱くエスカレーターをよく利用するという川崎市の女性(84)は、「追い越しざまにバッグが足に当たって、ヒヤッとすることがある。急いでいるなら階段を使ってもらえると助かる」と話す。