驕らぬマック、改革邁進 不採算店閉鎖、新型店オープン

 客足や単価の低下に悩む外食産業にあって、営業利益が過去最高益を更新するなど独り勝ち状態の日本マクドナルドが、地位固めに向けた構造改革に乗り出した。家族向けが基本の店舗デザインを見直して、黒を基調にした新しい店を6月末までに都内で13店オープンし、オシャレで都会的な新ブランドイメージの浸透を狙う。一方で、創業者の故・藤田田氏時代の急速な出店ラッシュの「負の遺産」である3割の不採算店の閉鎖や移転を急ぐ。1号店が東京・銀座に誕生して来年で40年目のマックが、さらなる強さを目指した改革に挑む。(今井裕治)
 ◆おしゃれに黒基調
 今年4月25日。東京都渋谷区のマック渋谷東映プラザ店前に、200人以上が列をつくった。お目当ては、店舗デザインを一新した新型店だ。
 赤を基調にせず、黒をふんだんに使った外観が目を引く。広々とした設計の店内にはソファを置き、全席禁煙、発光ダイオード(LED)照明、ユニホームの刷新など、通常の店舗とは完全に差別化し、カフェのような雰囲気にしている。
 メニューも、100円マックは置かず、大半の商品の値段を既存店よりも10~50円高くした。だが、来店した都内の20代の会社員は「価格は高いが、禁煙で落ち着けて、少々高くても気にならない」と絶賛した。
 マックは、実験店で客の反応全国展開の可能性も模索するという。
 マックの業績は、今年1月から始めたボリューム感たっぷりのハンバーガーの相次ぐ導入などが成功し、2010年1~3月期の連結営業利益が101億円で過去最高を記録するなど絶好調だ。
 こうした中で、あえて新型店に取り組む理由について、原田泳幸社長は「マックの独自性に磨きをかけるため」と言い切る。
 他の外食チェーンにはない差別性を打ち出し、ブランド力に磨きをかければ、好調な業績をさらに加速させられるとの思惑がある。
 ◆投資効率を最大化
 新規の出店戦略と並行し、最高益下でのリストラにも着手する。
 まず、年内に全店の1割に当たる433店を閉鎖する。433店はいずれも延べ床面積が165平方メートル以下で、マックの全メニューを提供できない小型店や、24時間営業が難しい店が中心だ。 また、633店について、3~5年かけて、客足の伸びが期待できる別の場所に移転する方針だ。
 マックが改革に乗り出すのは、「店舗に負の資産が存在しており、この整理を進めて基礎を固めなければ、戦略的投資効果が最大化されない」(原田社長)と考えるからだ。
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 ■「負の遺産一掃」課題に着手
 マックの経営は、創業時から2002年まで、中興の祖である創業者の故・藤田田氏が担い、一貫して店舗網拡大の道を歩んできた。1991年に約900店だった店舗数は00年には約3900店になり、わずか10年間で3000店も増えた。
 しかし、急速な店舗拡大の裏で、店舗間での商品やサービスの質にばらつきが生じ、店によって、売り上げに最大12倍もの開きが出た。不採算店も次第に増加し、マックの既存店売上高は、97年~03年まで7年連続で前年実績を下回る「低迷期」を経験した。01年12月期には創業以来初の最終赤字に陥り、拡大戦略は行き詰まった。
 立て直しのため、04年にアップルコンピュータ社長からマック社長に転じたのが原田泳幸氏だ。就任後、商品を注文を受けてから作る改革を断行し、飛躍的に収益性を改善させた。
 ただ、店舗オペレーションの改革など優先順位の最も高いものから着手したために、不採算店舗のリストラはやや後手に回り、昨年12月末の店舗数は3715店と、ピークから5%程度しか改善されていない。業績好調の中でも店舗改革は大きな課題で、「戦略的な閉店を一気に加速する」(原田社長)ことにしたわけだ。
 全店の3割にも上る店舗の改革を成し遂げれば、藤田氏時代の負の遺産はすべて出し切ることになり、「次の成長基盤を固め、上昇トレンドを加速させられるだろう」と原田社長は不敵な笑みを浮かべる。
 経営の重石がなくなれば、より大胆な商品開発や新規店舗戦略が進められる。「マックの独り勝ち」は揺らぎそうもなく、ある外食大手幹部は「マックが、“ビッグ”マックになる」と、戦々恐々と語っている。
 ■強い商品力 価格上昇でも需要取り込み
 日本マクドナルドは、1990年代後半の60円バーガーや、最近の100円マックのイメージが先行し、「デフレの申し子」と思われがちだ。だが、実際には、商品価格は上昇基調にあり、原田社長は「私たちは価値を訴求しており、6年間値下げを一度もしていない」と強調する。
 外食全体の客単価は、激しい価格競争で3月まで10カ月連続前年を下回った。これに対し、マックの1~3月の既存店客単価は0.7%上がっている。
 マックが一昨年冬に売り出した肉量増量の「クオーターパウンダー」は、単品の販売価格が350~360円と割高なのに、バーガー1個でお腹を満たしたい男性の需要を取り込んだ。
 さらに、今年1月から順次展開した「ビッグアメリカ」キャンペーンでは、価格が400円前後の高価格バーガーで、大ヒットを記録した。第一弾の「テキサスバーガー」は、売り出してから2日後の1月17日に、1日当たりの全店売上高が過去最高を更新した。そして、3月には全店売上高が497億円になり、単月の売り上げで、2001年の上場以来過去最高を塗り替えた。
 4月からは、日本生まれのハンバーガーを、約3週間ごとに投入する「日本の味」と題したキャンペーンを打った。セット価格だと一般的な定食店よりも割高になるメニューを導入したが、顧客の胃袋を刺激して店舗に呼び込んでいる。
 次から次へと新たな施策を打ち出しすことで消費者を飽きさせさず、さらに客単価を引き上げるという独特のマーケティングに成功している。牛丼の価格競争とは一線を画した戦略だ。マックは、好業績が次の投資余力を生む好循環を維持して外食デフレに立ち向かっており、なかなか死角が見えてこない。

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