大手ゼネコン(総合建設会社)各社が、高さ100メートル以上の超高層ビルを安全・安心に解体できる技術を競うように開発している。1960年代以降に“雨後の竹の子”のように建設された都心の高層ビルが解体時期を迎えつつあるためだ。来年3月末には東京・赤坂の高さ約140メートルの「グランドプリンスホテル赤坂」(赤プリ)が閉館し、取り壊される可能性が高い。これに続き、“超高層時代”の幕開けとなったビルが老朽化し始める。国内の建設投資が縮小を続ける中で解体工事は大きなビジネスチャンスとなるだけに、受注に向け各社の争奪戦がヒートアップするのは確実だ。
◆騒音軽減アピール
大林組によれば、築30年を経過した10階建て以上のビルは国内で8000棟弱にのぼるという。なかでも、高度成長期に建設されたビルが、米国では寿命とされる40年を次々と迎える中で、今後、高層・超高層ビルの解体・建て替え需要が増加するのは確実だ。
大成建設の広田哲夫・建築技術開発部長は「100メートル級の超高層ビルでも、設備高度化のために取り壊される物件が出てくる可能性がある」とみている。寿命がくる前に解体されるケースも想定されるため、各社とも技術アピールに余念がない。
今年2月に開発した解体技術「テコレップシステム」をテコに受注獲得に名乗りを上げるのが大成建設だ。「粉塵(ふんじん)やごみを飛ばさないうえ、騒音を出さず、近隣住民にも圧迫感を与えないというのは大きな特徴」。同社建設技術開発部の市原英樹次長は、自社の解体技術に自信をみせる。
この技術は既存の建物の屋根を“フタ”代わりに使い、ビルを上から解体する仕組み。密閉状態の中で1階ずつ解体でき、分解されたパーツはクレーンで保護しながらビル内から荷降ろしできるため、粉塵や部材の飛散や落下をゼロにするほか、騒音や振動も大幅に減らせる。
これまでの解体場面では、建物の最上階にコンクリートをカニの爪のように挟んで砕く「クラッシャー」を重機に載せ、1フロアずつ壊しながら降りてきていたため、粉塵や騒音の発生が避けられなかった。
大成の技術は屋根内で作業できるため、天候や風に左右されることもなく連日の作業が可能で、これまでの工法に比べて工期を15%程度短くする効果も期待できる。一般的に、ビルの解体には高さ30~40メートルクラスでも3カ月~半年かかるが、100メートル級では1~2年とも予想されている。このため「工期短縮効果もアピール材料」と市原氏は胸を張り、赤プリをはじめ実際の工事への適用に全力を挙げる構えだ。
◆“だるま落とし”先行
負けじと対抗技術を打ち出したのが大林組。同社の「QBカットオフ工法」は、床や柱などを数メートル間隔ですべて切断し、クレーンで地上に下ろす仕組み。最上階に圧砕用重機を置いて使う場合に比べ振動を軽減でき、騒音を25%減らすことができるとしている。清水建設も、ビル上層から順番に切断してブロック化し地上に降ろす仕組みを採用。東京・京橋の同社旧本社ビル(高さ65.5メートル)の解体時に適用した実績に加え、国内で最も高いビルを解体した実績も生かして売り込みを強化する構え。
超高層ビルの解体技術で業界に先行し、他社の技術競争に火を付けたのが鹿島。“だるま落とし”のようにビルを下の階から解体する仕組みで、「鹿島カットダウン工法」と名付けた独自の解体方法がそれだ。08年に東京・赤坂の同社本社ビル取り壊しに適用され話題を呼んだ。耐震用の補強をしたうえで、地下や1階部分の柱を切り取り、その代わりにジャッキで支え直す仕組み。柱を70センチずつ切断し、ジャッキで支えた後に建物を下に下げていくことで、1フロア当たり約6日で解体を進められるという。安全性が高まるうえ、騒音も少なく、粉塵も3割減るという。
同様にだるま落とし方式の工法を編み出した竹中工務店は09年、鉄塔ながら最も高い158メートルの大阪タワーを解体した実績をテコに受注に意欲を燃やす。
赤プリを手始めに、今後拡大が予想される高層ビル、超高層ビルの解体をめぐり、各社の受注競争が激しさを増すのは必至だ。(今井裕治)