黄砂シーズンが到来し、“中国発”の微小粒子状物質(PM2.5)が九州を中心に飛散するなか、この分野の対策ビジネスで、中小企業やベンチャーの活躍が目立っている。飛散量の測定から防御用マスクまで、事業領域は広範に及ぶ。
◆羽生選手が人気に火
「まさに“羽生効果”だ」。驚きながらそう話すのは、くればぁ(愛知県豊橋市)の中河原毅専務だ。
くればぁは、PM2.5や花粉の対策用マスク「Pittarich(ピッタリッチ)」を販売している。3月にはフィギュアスケート世界選手権に出場する ため中国・上海へ赴いた羽生結弦(ゆづる)選手が、日の丸付きのタイプを着用、一気に人気が沸騰した。このため、供給が追いつかなくなり、3月30日から 4月13日まで販売停止を余儀なくされた。
ピッタリッチには、鼻の高さや横幅など5カ所を測って作るオーダーメードタイプがある。鼻とほおの部分に形状記憶ワイヤが採用されており、顔にフィット したまま型崩れしないのが特長だ。1万1980円(税込み)と値は張るものの、特殊なメッシュ素材を採用し、100回は洗って使える。そこには同社が製粉 会社や製薬会社に納めてきた樹脂製フィルターのノウハウが生かされているという。
商品化したのは12年前。中河原専務が中国を訪れた際、大気汚染の深刻さを目の当たりにしたのがきっかけだった。もっとも、当時は「どこに売り込んでも 『PM2.5って何?』といわれる始末。ずっと売れていなかった」(中河原専務)。
しかし、特許が切れる半年前になって、PM2.5に発がん性物質が含まれていると発表されたことから人気が急上昇。今回の羽生効果がさらに販売を押し上 げた格好だ。今では中国人観光客がわざわざ本社まで足を運び、計測してもらいに来ることもあるという。
◆大手と互角の競争
PM2.5の被害防止には、大気状況の正確な把握が欠かせないが、ここでも中小企業やベンチャーの活躍が目立つ。
大気状況を監視する無人観測所に追加設置され つつあるPM2.5の測定器。グリーンブルー(横浜市神奈川区)は、その維持管理を自治体から請け負っているほか、センターで測定データを収集・処理し、 月報を作成したり、予測に役立てられるシステムを開発している。
PM2.5の測定器は2009年ごろから設置され始めたが、同社はそれ以前の試験運用時代からかかわってきた。1972年の設立以来、光化学スモッグや 窒素酸化物(NOx)の測定で積み上げた実績もあり、「“現場”に精通し、自治体の要求事項に応えられるほか、コストも安い」と谷学社長。
PM2.5向けのデータ収集システムでは、NECや富士通といった大手と互角の競争を展開している。
PM2.5の測定地点は国内で1000カ所程度まで増えたとみられるが、発生場所の特定には最低でも1300カ所程度が必要といわれる。谷社長は「今後 も観測精度の向上に貢献したい。別会社では一般の人がより興味を持つよう、かみ砕いて紹介する情報サイトも準備している」と力を込める。
測定器では、一般向けでもベンチャーらしい、斬新な発想を反映した商品が登場している。ITベンチャーのE3(東京都新宿区)が3月から販売している小型端末「airmon(エアモン)」もその一つだ。
エアモンは、一辺の長さが約6センチの立方体で、手のひらに乗る大きさ。事前にダウンロードしたスマホのアプリを開き、エアモンの電源を入れた後に、ス マホのカメラでエアモンにはられたQRコードを読み取ると測定を開始。内蔵のファンが回って空気を吸い込み、15秒ほどでPM2.5の値を計測する。デー タは近距離無線「ブルートゥース」でスマホに転送し、画面に表示する。
現在はアマゾン・ドット・コムで販売しているが、免税店にも置かれることが決まっている。同社では「小さく、おみやげに最適。炊飯器、洗浄機能付きトイ レに続く(中国人観光客の)“爆買い”商品になれば」と期待に胸を膨らませる。(井田通人)