高校無償化、広告で“悪用” 茨城の私立高「就学支援金キャッシュバック」

 4月から始まった高校授業料無償化で、茨城県にある株式会社立の通信制高校がホームページ上に私立高生すべてに適用される「就学支援金」を同校のみで受け取れる特典かのように表記した生徒募集広告を掲載していたことが27日、分かった。広告はすでに削除されているが、“キャッシュバック”との文言もあり、国会でも議論。消費者庁は「景品表示法に抵触する恐れもある」と指摘し、文部科学省は実態調査に乗り出した。
 指導を受けた高校は茨城県大子(だいご)町の「ルネサンス高校」。地域限定で規制緩和を認める政府の構造改革特区で同町が認可し、平成18年度に開校した。設置主体はルネサンス・アカデミー株式会社で、広域通信制高校として全国から生徒を募集している。
 参院質疑によると、同校は2月15日から4月16日までの期間限定で「緊急告知! 就学支援金春の特別キャンペーン」と掲げて生徒を募集。「キャンペーン期間中の“うれしい特典”これが最後のチャンス! まだ間に合う!」として、期間中の入学者に就学支援金11万8800円を一括返還▽世帯収入が350万円未満の場合、支援金増額分として5万9400円~11万8800円をキャッシュバック-などと呼びかけた。
 高校無償化は公立高は授業料を徴収しない方法で行うが、私立高の場合、家庭が学校に申請し、国が就学支援金を代理受給者である私立高に年数回に分けて支給する。世帯収入による支援金増額分も同様だ。
 このため就学支援金も増額分も、どの私立高生徒も享受できる。しかし、同校は家庭からいったん正規の授業料を納めさせた上、就学支援金の金額を返還。募集広告には「一括返還は本校だけのスペシャル特典!」と表記し、返還は「政府の方針を受けて」と書いていた。
 募集に応じ、同校には今春235人が入学した。大子町は4月中旬、「政府の方針を受けて」との記述は返還が政府の方針かのような誤解を招く-などとして不適切な広告で、今後実施しないよう指導した。同校はホームページから広告を削除したという。
 消費者庁もこの広告について、「今しか就学支援金をもらえない、同校のみの特典であるかのような誤解を与える表現だ」として、景品表示法に抵触する恐れがあると指摘。改善が不十分なら厳正に対処する意向だという。
 同校は、通信制高校という性格から携帯電話を駆使した履修形態をアピールしているが、広告には「年4日登校すれば卒業可能」といった文言もあり、国会で「これで高校ですか」との質問も。川端達夫文科相も「高校ですかといわれたら、一応高校です」と答弁し、実態調査をしていることを明らかにした。
 同校の担当者は「指導があったので従った。それ以上の説明は差し控えたい」としている。
【常識外れ…特区のツケ】
 ルネサンス高校は規制緩和で特例を認める構造改革特区で生まれた。特区では同校以外にも、不登校や学習障害児向けの学校など既存の教育政策で置き去りにされがちだった面を取り上げた学校が誕生。設置主体も多彩になり、株式会社も学校経営に乗り出した。
 しかし、新規の学校の中には、常識を外れた運営やずさんな管理態勢を指摘されるケースも出ている。
 LEC東京リーガルマインド大学は、資格予備校で行われているビデオ授業を大学の講義にそのまま使っていた実態が判明。文科省から資格予備校と大学の講義とを完全分離するよう改善勧告を受けた。
 ルネサンス高校の場合も「通信機器の駆使でスクーリングの短縮は可能。だが年4日は考えられない」(鈴木寛文科副大臣)「単に広告の問題というより、学校がこういうセールをすることはいかがかと感じる」(川端達夫文科相)と文科省から学校のあり方に疑問の声が上がった。
 同校のホームページには《天気のいい日はカフェのテラスからでも、今もっているあなたの携帯で高卒資格取得を目指せます》《レポートは選択式問題。答えをクリックするだけ。正解不正解もその場ですぐに判定》といった文言が並ぶ。
 元教員の義家弘介参院議員は「これが高校か。子供にチャンスを与えることは大事だが、学校とは何かを踏まえ、しっかり教育することも大事。安易に卒業証書を渡すのは子供のためにならない」と指摘する。

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