高校生の「タブレット端末」自己負担が急増中 保護者は「そんなにお金がかかるなら、高校に行かせられないかも」と悲鳴

 小・中学校や高校で、いまや授業の必需品となったタブレット端末。公立高校では、これまで国の交付金を活用して1人1台のタブレット端末を整備してきたが、コロナ禍が明けてから保護者負担に切り替える自治体が増加している。入学時の費用増に保護者から悲鳴が上がっている。 【署名活動も】「タブレット端末」の自費負担は家計にどれだけ響くのか * * * ■1人につき10万円近い負担増 「タブレット端末の購入費は、家計に大きな負担です。うちは小・中学生の子どもが3人いるので、全員が県立高校に通うと、学費とは別に22万円を超える金額を負担することになってしまいます」  香川県高松市に暮らす福本由紀子さんはそう話す。  香川県は、県立高校の授業や宿題に使用するタブレット端末について、来年度の新入生から、公費負担から保護者負担に切り替える予定だ。端末の価格は約5万5000円。学習支援やセキュリティーなどのソフトウェア利用料と合わせれば、7万5000円ほどかかる見込みだ。  福本さんは7月、ママ友らとともに「香川県の高校生のタブレットについて考える会」を立ち上げ、9月中旬から地元商店街などで署名活動を始めた。 「お金に余裕がある家庭ばかりではない。子育て世帯にとって1人につき10万円近い負担増が厳しいことを、知ってほしい」  街頭やオンラインサイトで募った署名は、今月中に県の教育委員会に提出する予定だという。 ■学校教育に必須なのに  いまや、学校教育にタブレット端末は必須だ。文部科学省によると、義務教育の小・中学校における1人1台端末の整備状況は、全自治体等のうち99.9%が完了(2022年度末時点)。同省が今年5月に行った調査によると、公立高校でもタブレット端末の整備率は100%を超えた(予備機を含む)。  このうち、23府県は公費負担、24都道府県は保護者負担。市区町村立も含めて、公費負担のタブレット端末は計約103万台で、前年と比べて約6万台減だったのに対して、保護者負担は計約100万台。約26万台増だった。  だが、タブレット端末は高価だ。また、端末管理の煩雑さを防ぎ、教員の負担軽減を図るために指定機種を推奨している自治体もある。

■中古品の活用や「お古」融通もできない  たとえば、香川の県立高校では原則、指定の機種(グーグル・クロームブック)を新品で購入する必要があり、すでに持っている端末を使うことができない。 「制服なら、誰かから譲り受けるとか、リサイクルショップで購入して節約できます。タブレット端末は決められた新品を購入しなければならず、きょうだい間で『お古』を融通することもできない」(前出の福本さん)  文科省が進める「GIGAスクール構想」の一環として、香川県が1人1台のタブレット端末を高校に整備し始めたのは、2019年度。公費購入ではなく、学校が指定した機種を保護者に購入してもらい、授業で使う「BYAD(Bring Your Assigned Device)」方式だった。同年度、県内の3校がBYAD方式でタブレット端末を導入した。  だが、翌20年度、コロナ禍で学校の臨時休校が続き、オンライン授業を行う必要に迫られた。国からの新型コロナ対策の交付金を使い、残り26校にタブレット端末をリース契約で整備した。 ■コロナ禍は明けリース契約も終了、元の方針に戻す  来年度から公費負担から保護者負担に切り替える理由について、香川県教委高校教育課の佐伯卓哉課長補佐は、こう説明する。 「タブレット端末のリース契約が終了したタイミングをもって、元の方針に戻すということです」  文科省はタブレット端末について、(1)マイクロソフト「ウィンドウズ端末」、(2)グーグル「クロームブック」、(3)アップル「アイパッド」――このいずれかが望ましいとしている。 「グーグルのクロームブックは他機種よりも若干割安なうえに動作が軽快」(佐伯課長補佐)なことから香川県は推奨機種とした。必要なソフトウェアを業者が一括してインストールし、保守に対応するためにも「指定した機種を購入してもらうことが必要」という。 ■ほかの自治体も続々  保護者負担への切り替えは他県でも進んでいる。  群馬の県立高校では今年度の入学生から、公費負担から保護者負担に切り替わった。個人が所有する端末を学校に持ち込んで使用する「BYOD(Bring Your Own Device)」方式を採用。BYADと比べて端末を購入する際の制約は緩く、機種を問わない学校もある。手持ちの端末がない場合、貸し出しも行われている。 「導入時には国費を使いましたが、数年後にBYODに移行することを当時から想定していました」と、群馬県教委の毒嶌(ぶすじま)章係長は説明する。

■BYOD方式採用の理由 「自分の好きな端末を利用して愛着が生まれることも期待して、というのがBYOD方式を選択した大きな理由です」(毒嶌係長)  宮城の県立高校では現在、タブレット端末の無償貸与が行われているが、いずれは保護者負担に移行する見込みだという。 「義務教育の小・中学校と違い、恒久的に国から交付金が出るわけではありませんから」(宮城県教委の担当者)  自治体の財政状況によって、購入支援に格差も生じている。  生活保護受給世帯や非課税世帯は負担がないことが一般的だが、東京都立高校の場合、保護者は一律で負担額が3万円以内に軽減される。多子世帯(23歳未満の子が3人以上)では1万5000円の負担額ですむ。 ■タブレット端末は「文房具」か  千葉工業大学工学部教育センターの福嶋尚子准教授は、タブレット端末の保護者負担への切り替えは「自治体が考える以上に大きい問題」と指摘する。 「自治体は、コロナ禍で公費負担にしたものを元の計画に沿って保護者負担に戻すだけと考えるかもしれませんが、保護者には相当の負担が生じます」  そもそも、いくつもの自治体が「タブレット端末は“文房具”」「個人で所有するから」という理由で、タブレット端末を保護者負担にしているが、それは法令に基づくものではないという。  1974年に都道府県教育長協議会が出した報告書「学校教育にかかる公費負担の適正化」によると、私費負担とすべき経費に「生徒個人の所有物にかかる経費」とある。この報告書の記載内容は教育行政で慣習的に用いられてきたが、法的な根拠はない。  福嶋准教授によると、「学校運営に必要なものや、授業で欠かさず使うものは学校設置者が負担するのが原則」。学校教育法第5条がそれを定めているという。 ■「子どもの学ぶ権利」の観点から 「タブレット端末を保護者に負担させれば、購入を断念せざるを得ない人が出ます。高校生の教育条件整備の水準を引き下げる行為です。子どもの学ぶ権利の観点からもっと真剣に考えるべきです」  文科省の調査によると、公立高校の学校教育費は年に平均約31万円(21年度)。支出上位の通学関係費は約9万1000円、授業料は約5万2000円だ。 「ここに新たにタブレット端末代が加わるわけです。経済的に厳しい家庭だけを支援すればいいという負担額ではない。そんなにお金がかかるんだったら、高校に行かせられないかも、と考える保護者も出てくるでしょう」  国は、子育て支援や教育の質の向上を繰り返しアピールしてきた。タブレット端末の導入はGIGAスクール構想のかなめだ。 「であれば、保護者の負担にすべきではありません。文科省の責任ある対応が求められていると思います」 (AERA dot.編集部・米倉昭仁)

米倉昭仁

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