高級タワマンを買ったけど…「ヤバすぎる管理組合」のせいで「地獄」を味わった人たち 売るに売れず、年100万が出ていく

管理組合は不正の温床

今後、新型コロナの影響で日本経済は本格的な不況に突入する可能性がある。

イチゴ農家ご出身で「叩き上げ」とされている我らが新しい総理大臣は、政治家サラブレッド族ご出身の前任者よりも、国民や企業に自助努力を促すタイプではなかろうか。仮にそうなら、2020年の春以降に行われた給付金のバラマキ的な景気対策の追加は、どうやら期待できそうにない。我々はそれぞれ与えられた持ち場で可能な努力をおこなうしか、これからやってくる不況を切り抜けることができない、ということになる。

不況感が深まると、都心や湾岸の中古タワーマンションは約10年ぶりの資産価値下落ステージを迎えることになりそうだ。つまり、アベノミクスによるバブル的な高揚感は過去のものとなり、それぞれの物件の真の資産価値が試されることになる。

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そうなるとタワマンも外観の華やかさや豪華な共用設備もさりながら、管理面の健全性や質実性が問われることになる。

特にタワマンにおいては、管理組合がとりわけ資産価値を維持するのに重要になる。管理組合には莫大なおカネが集まるがゆえに、それをいかに健全に扱うか、ということは最重要のポイントになる。管理組合の財務運営はそもそも「利権」である。そればかりか、時に犯罪の温床にもなる。

これから、健全な管理組合を持つかそうでないかによってタワマンの価値は大きく変わってくる。それはまさに天国と地獄とも言えるような運命の分かれ道である。

ここでは、管理組合の運営の良し悪しによって、物件の価格が大きく変動してしまった2つのマンションの事例を紹介しよう。

まず、私が知る中ではほぼ「最悪」ではないかと思えるケースだ。

かつての200分の1の値段に

舞台は約30年前に建設された温泉スキーリゾート地のタワマン。規模は約550戸でスキー場が目の前。プールや大浴場、バーラウンジやテニスコート、体育館など豪華施設が充実している。いかにもバブル期に企画された、今では考えられないくらいにアミューズメントのハードが行き届いたリゾートマンションである。

ここで5年前に大きな事件が発覚した。おそらくマンションの管理組合に関する事件としては最大規模である。

新築直後から十数年間理事長を務めていた人物が、区分所有者から徴収されていた修繕積立金のほぼ全額を私的に流用したことが発覚したのだ。その額は11億7000万円超。

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発覚の数か月前、私のところに全国紙の記者がやってきて取材内容を明かしてくれた。

「こんなことはあり得るのですか?」

記者は「信じられない」という表情で私に尋ねた。もちろんあり得る。マンションの管理組合理事長というものは、これくらいのことは簡単にできてしまう。途中で誰かが「おかしい」と考えても、調べることはできない。そういう手続きを定めた法規もない。

「マンション管理の憲法」とされる区分所有法は制定後58年が経過している。何度か改定されているが、骨格は変わらない。その法原理の前提は性善説だ。つまり、管理組合の管理者(理事長)たる者は、自身のマンションの資産価値を毀損するような行為はおこなわないはず、という前提に立っているのだ。だから理事長は悪事の働き放題、ということになる。

この事件、その後の展開は報道されていない。元理事長はいくらか返済したらしいが、横領額の半分以上に時効が成立したと伝え聞く。

このマンションでは、つい最近も別の事件が起こった。

先の理事長とは別の現理事長の一派が、無届の違法な民泊運営をしていながら、同じマンション内で合法に民泊をおこなっている住戸の付属物を窃盗したらしい。これは地元警察が乗り出して書類送検にまで至っていると伝えられる。何とも事件の多い物件である。

こういうマンションの資産価値は当然高く評価されない。

新築分譲時の坪単価は200万円以上であったと推定されるが、今は1万円程度。それでも買い手が現れないから売り物件さえ市場に出てこなくなった。それでいて、区分所有者には1?当たり月々700円超の管理費や修繕積立金に加え、固定資産税も発生している。

このエリア全体でのリゾートマンションの年間利用率は10%未満と予測されている。大半の区分所有者は全く利用しないタワマンの保有コストを、年間100万円近くも支払わされているのだ。これはまさにタワマン購入で地獄を見たケースではないか。

管理会社の責任者が横領

もうひとつの事例は、東京都港区のまずまずの立地にあるタワマン。

建設されたのは2005年であるから、今で築15年である。地下鉄の比較的新しい駅に直結する複合開発で、住戸だけなら600戸弱。同じ開発区内には食品スーパーやクリニック、飲食店などが営業している。その区画の所有者は、元の地権者だ。

ここでも十数年前にある事件が起こった。常駐していた管理会社の責任者が、組合会計に入れるべき駐車場利用料を1500万円ほど横領していたのである。

もちろん、横領された全額を管理会社が弁済した。その管理会社は、日本でいちばん「マンションのことが分かっている」と称するグループ子会社だったのが、やや皮肉である。

ここで一人の区分所有者が動き出した。彼の職業は経営コンサルタント。彼の眼から見ると、組合の運営が信じられないレベルにずさんだった。さらに言えば、元の地権者関連への資金還流の実態が、いかにも不健全であった。

彼は理事長となって改革に取り組んだ。

その頃、私は彼に呼ばれて理事会で1時間ほど話をさせていただく機会があった。その時に聞かれた。

「榊さん、ヴィンテージマンションになるにはどうすればいいですか?」

ヴィンテージマンションというのは、簡単に言えば築年数が重なっても資産価値が落ちない、あるいは落ちにくい物件のことである。

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そのマンション、立地はまずまずだが建物のデザインや仕様は普通レベル。日本でいちばんたくさんマンションを作ってきた会社は、普通に作るのがお得意なのだ。

だから、私はお答えした。「管理面で高く評価されることでヴィンテージをめざされればいかがでしょう」。

彼は改革に邁進した。管理規約を合理的な内容に変更し、共用施設の運用を効率化し、駐車場の収益を高めた。上場企業のように外部から監事を招聘して、第三者による組合運営の厳格な監査を実施している。

ありがちな管理会社の提案に基づく大規模修繕工事などはおこなっていない。補修すべきところを補修すべきときに補修する、という考え方である。私もそれで正解だと思う。大規模修繕を十数年に一度必ずおこなう、というのは国土交通省と管理業界が作り上げた都市伝説みたいなものだ。すべてのマンションが必ずやらなければならないものではない。

そういう考えで運営しながらも、今では大規模修繕工事を3回くらいは楽におこなえるほどに財務力を高めている。それまで、いかに無駄が多かったかということだ。

そのタワマン、今では管理面が評価されるヴィンテージマンションに名を連ねた、と私は考えている。もちろん、資産価値評価も15年前の新築時と比べると約1.5倍になっている。

15年前にこのマンションを購入した人が現時点で売却すると、約15年の間を管理費と修繕積立金、固定資産税のみのコストで住めた上に、何千万円もの譲渡益を得ることになる。これはタワマン購入で天国を味わったことにはならないか。

「成功の証」のゆくえ

タワマンは多くの人にとって憧れの対象である。また、ニューカマーにとっては成功の証でもあると考えられている。

秋田のイチゴ農家出身であるかつてのニューカマーが、政治家としてある程度立身を遂げられたときに購入したのが、彼の選挙区である横浜の駅前にあるタワマンであったという。ある意味、成功の証なのかもしれない。

そのご仁の今の主たる住まいは総理官邸であっても、ただの一議員に戻った時には、自身のお住まいはそのタワマンになるのではないか。

このご仁が購入したタワマンは,果たしてこれからどちらの道を歩んでいくのだろうか。            

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