【ビジネスの裏側】 11月17日午前0時に解禁されたフランス産ワインの新酒「ボージョレ・ヌーボー」。テレビや新聞に盛んに取り上げられていたのは一昔前の話で、今では販売本数も伸び悩み、「バブル期の遺産」と呼ばれるほど凋落している。一時はもてはやされた解禁イベントもほぼ“死に体”状態で、一部には「経済が低迷する日本では根付かない」(業界関係者)との声も聞こえてくる。
「3、2、1、ゼロ。解禁です」。神戸市中央区の神戸ポートピアホテルのバーで開催されたボージョレ・ヌーボーの解禁パーティー。雰囲気は最高だが、残念なことに参加者はわずか十数人で、華やかなムードが逆に痛々しい。
ボージョレ・ヌーボーは、仏ブルゴーニュ地方のボージョレ地区で収穫された「ガメイ種」と呼ばれるブドウで作られたワインの新酒のこと。ヌーボーはフランス語で「新しい」を意味し、文字通り“ボージョレの新酒”だ。
解禁が設けられたのはボージョレを他社より早く売ろうとした販売者側の競争激化によりワインの品質が低下したため、これを防止しようとフランス政府が制定。当初は11月15日が解禁日とされたが、「週末は働きたくない」というフランスのお国柄か、15日が土・日曜日となった際に流通がストップする事態に陥ったために「第3木曜日」に変更された。
日本は日付変更線に最も近いことから、先進国の中では世界で一番早くボージョレが飲める国。こんな理由も手伝って、バブル時代には全国各地で華やかな解禁イベントが開かれた。
しかし、以前に比べ高級ワインが世界中から輸入されるようになり、ボージョレのライバルも増加。「新しい」を売りにするボージョレは、深みの点では熟成された高級ワインに劣る。
木曜日の午前0時という解禁日時も不評だ。過去には解禁イベントと宿泊をセットにしたホテルも多かったが、最近は解禁パーティーを実施しているところも数えるほどしかない。
イベントにも参加してもホテルに宿泊しない場合、帰りの電車は動いておらず、タクシーを利用せざるを得ない。「不況で給与が減る中、平日の夜12時からなんて。こんな割に合わないイベントに行くなんて考えられない」と30代女性はあきれ顔だ。
イベントだけでなく、商戦としても盛り上がりは今いち。外国に由来するイベントとしては「バレンタインデー」も同じだが、こちらは比較にならないほどの盛況ぶり。1月後半からスーパーや百貨店ではバレンタインフェアを開催し、国内外のチョコレートが店頭を飾る。価格も下は100円台から上は数千円と、幅広く子供から大人まで参加できる。
これに対し、ボージョレはアルコールのため20歳以上限定で、値段も500円程度からとチョコレートに比べると高価。景気が劇的に回復しない限り“悪条件”のそろったボージョレに酔うのは難しそうだ。(中山玲子)