頭からぱくりといくと、サクッとした舌触りの後、ほどよい甘さが口の中に広がる。仙台市のたい焼き店「鯛(たい)きち」(中津拓也社長)が開店15年目を迎えた。JR仙台駅前など市内に3店舗あり、合わせて1日1000個を売り上げる人気店だ。新型コロナウイルス禍の逆風にさらされながらも、杜の都で着実に根を下ろしている。(編集局コンテンツセンター・佐藤理史)
塩釜の藻塩で引き締め
愛宕上杉通沿いにある「名掛丁本店」(青葉区本町)。5坪ほどの店内に、甘く香ばしい匂いが漂う。「あんこ2点入りまーす」「出来たてをご用意いたしまーす」。接客係と焼き職人の元気なやりとりが響く。
一度に6個できる焼き器が6台。注文を受けてからでも、どんどん焼けるように余裕を持たせている。「保温庫に置くのは20分以内まで」がルール。専務の中津陽子さん(47)は「少し時間をいただきますが、一番おいしい焼きたてを味わってもらいたいので」とこだわりを見せる。
軽い薄皮と尻尾までたっぷり詰まったあんこが特徴。皮となる特注のミックス粉は添加物のミョウバンは使わず、メープルシロップで豊かな風味を加える。粒あんは自社製で、甘さ控えめの上品な味わい。北海道・十勝の契約農家から仕入れた小豆「きたろまん」をふっくらと炊き上げ、塩釜特産の藻塩で味を引き締める。
震災翌日には再開
2007年10月、食品卸を営んでいた中津さんの父、石黒文夫さん(現会長)が「エンドユーザーと直接顔を合わせる仕事がしたい」と店を開いた。当時はやっていた「10円まんじゅう」にするかどうか悩んだが「初期投資が少なく、素人でもできるかも」とたい焼きを選んだ。
開業時の店名は「鯛あん吉日」だった。その後、他地域に同名の店があることが分かり、店によく来ていた学生らが使っていた略称を正式な店名とした。
1個150円からの手頃な価格で小腹、別腹を満たす軽食は、若者の支持を集めた。年配の人は、かつて近くの商店街にあった名物店「工藤のたい焼き」の再来と喜んだ。開業当初は焼き器が今の半分だったこともあり、待ち時間が最長1時間半に及んだこともあった。
ブームが落ち着き、売り上げが下降線を描いていた2011年、東日本大震災が起きた。電力の復旧が早く、スタッフの奮闘もあって、翌日の3月12日には営業を再開できた。
値段は「特価」の100円にした。温かくて甘い食べ物を求める人で長蛇の列ができた。中津さんは「お客さんとの関係が深まる大きな転機になりました」と振り返る。
今ではオンライン店舗も
飲食の激戦区である駅前エリアで、競合店の進出もありながら地位を築いてきたところに、今度はコロナ禍が吹き荒れた。
食べ歩きはできなくなり、会合などの大口注文も激減。海外を含めた観光客は途絶えた。売り上げは一時、コロナ前の半分に。今はやや持ち直したが、25%ほど落ち込んでいる。
生き残りを懸け、今年2月にオンライン店舗を開いた。たい焼きは、コロナ対応の補助金で購入した機器で急速冷凍する。ホイップクリーム入りで冷やして食べる「生たい焼き」やカップ入りのあんこも販売する。
中津さんは「熱々、ほかほかを店先で食べてもらう方法はこれからも守っていきたいです。一方で、コロナの時代に合わせた新たなやり方を考えて、動きだしています」と次の15年を見据える。
▷たい焼き店「鯛きち」◁
<名掛丁本店>仙台市青葉区中央2丁目1の30。午前10時半~午後7時、最終焼き
<仙台駅前店>青葉区中央3丁目6の3。午前11時~午後7時、最終焼き
<木町通店>青葉区木町通2丁目4の31。午前10時~午後5時40分(土日は午後5時半)、最終焼き
3店とも生地がなくなり次第終了。不定休。
◎メニュー
小倉あん、カスタード(150円)、黒ごまあん(180円、5の付く日は150円)、クリーミーピッツァ(230円)など。期間限定の味もある。生たい焼きは180円から。