鼻ほじりで死に至る病にかかることも…感染症リスクが高まる理由

老いも若きも、特に男性はついつい鼻をほじってしまうもの。しかし、イギリスの研究機関から、鼻をほじると感染症のリスクを高めるという研究結果が出ているように、鼻ほじりには思った以上に危険が伴っているという。そんな鼻ほじりの危険性と予防について、大阪府内科医会副会長の泉岡(いずおか)利於氏に話を聞いた。(清談社 沼澤典史)

鼻ほじりは 菌を粘膜に押しつける行為

 鼻をほじり、ひときわ大きな“ブツ”が取れたときの快感はひとしおだ。この気持ちに共感する人は多いだろう。しかし、鼻ほじりは我々が予想している以上に危険な行為なのである。

 英王立リバプール大学病院の研究者らは、18~45歳の成人被験者40人の手に肺炎球菌を塗り、ぬれた手を鼻に近づけ息を吸い込む「wet sniff群」、乾いた手を鼻に近づけ息を吸い込む「dry sniff群」、ぬれた手で鼻をほじる「wet poke群」、乾いた手で鼻をほじる「dry poke群」のいずれかを行ってもらった。

 その結果、肺炎球菌はいとも簡単に手から鼻へと感染することが示され、最も感染しやすかったのは「wet sniff群」と「wet poke群」であったという。肺炎球菌は人間が当たり前に持っている常在菌だが、免疫が弱い子供や高齢者が感染すると重症化する。

 内科医の泉岡氏は鼻ほじりのリスクをこう語る。

「基本的に菌やウイルスの感染経路には飛沫感染と接触感染があります。手についた菌を鼻の奥の粘膜に押し当てるに等しい鼻ほじりは、接触感染のリスクを高めると思いますね」

 ご存じの通り、鼻には鼻毛があり、それがフィルターの役目をしている。鼻ほじりは、そのフィルターを通り越して菌を体の奥へと送っているというわけだ。

鼻ほじりによって 重篤な感染症の発生可能性も

 また、鼻ほじりの際には、爪などで鼻の粘膜を痛める可能性もある。

「鼻ほじりは、鼻の奥にある粘膜を傷つける場合もあります。鼻粘膜は非常にデリケートですので、少しの刺激でも傷つきやすく、慢性的な鼻血につながりますし、細菌やウイルスにも感染しやすくなります」

 鼻ほじりによって皮膚や粘膜が傷つくことによって、細菌感染が起こり、赤く腫れてしまう「鼻せつ」という感染症もある。原因となるのはほとんどが常在菌の黄色ブドウ球菌だが、傷に入り込むと炎症を起こし、痛みやうみを伴うこともある。

 さらに合併症として蜂窩織炎(ほうかしきえん)や海綿静脈洞血栓症(かいめんじょうみゃくどうけっせんしょう)などの病気が引き起こされることもある。特に海綿静脈洞血栓症は、黄色ブドウ球菌が頭蓋内に入り込んで引き起こされ、中枢神経感染症として重篤な病態に陥ることもある危険なもの。けいれんや、意識レベルの低下などが見られることもあるという。

「医学的に言えば、鼻ほじりのメリットはありません。菌を粘膜に塗りつけていることと同義で、感染のリスクは高まります。基礎疾患がない人でも、二日酔いや睡眠不足が続いている人は免疫が下がっていますので、安心はできません」

鼻ほじりだけではない 日常の危険行為

 とはいえ、鼻ほじりという長年の癖をすぐに直すのは難しいもの。気をつけたい人はどうしたら良いのか。

「どうしても止められないなら、手を除菌してからほじるとマシでしょうが、現実的には難しい。なので、マスクをつければ多少はほじりづらくなるのではないでしょうか。よくティッシュを突っ込む人もいますが、指とあまり変わりません。指よりは菌が付着していないと思いますが、滅菌のティッシュはありませんし、粘膜を傷つける可能性も変わらずありますから」

 さらに泉岡氏は、鼻ほじり以外でも感染リスクを高めてしまう日常の行為があると話す。

「爪をかむことも、指先のウイルスが口から体内に入る手助けになってしまいます。同様にお菓子や料理を手で食べ、指をなめることも挙げられますね。あとは目をこすっても、目の粘膜からウイルスや菌が体内に入ってしまいます」

 前出の肺炎球菌は小児の鼻や喉に主にすみ着いている。小児が鼻をほじった手から物に付着した菌を吸い込み、高齢者が肺炎を発症することも考えられるのだ。鼻をほじるなと子どもには言いづらいが、親は注意を払いたいところだ。

 また、成人男性であっても、インフルエンザや流行している新型肺炎を予防する意味でも、鼻ほじりを控える必要がるようだ。

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