齋藤孝教授が語る【語彙力と生涯年収】の意外な関係

テレビでおなじみの明治大学文学部教授・齋藤孝先生が、著書『子どもの語彙力を伸ばすのは親の務めです(仮)』(KADOKAWA)を、7月下旬(予定)に出版。これから社会に羽ばたいていく子どもたちが身に着けておくべき“語彙力”を、母親としてどう育めばいいのか…、そして“語彙力”が、なぜそんなに大切なのか…、齋藤先生が、優しくわかりやすくナビゲートする!

●語彙力で生涯年収にも差が生じる

将来的に文系に進むのか理系に進むのかを問わず、「語彙力、国語力はすべての基礎になる」と語る齋藤先生。

「語彙力があると、知性が磨かれます。人間は基本的に、言葉で物事を考えるわけで、言葉が少なければ、どうしても感情や思考が単純になります。例えば、“やばい”のひとことですべてが済まされてしまうと、それ以上考えられなくなり、思考が停止してしまう。“ムカつくね”ですませていると、感情面も単純になってしまいます。しかし、語彙力があって言葉が自由自在に使えると、自分自身を豊かに表現できるようになりますし、人を理解する力も養われます。また、自分の心のなかのもやもやした気持ちを的確に言葉にすることでストレスも軽減されます。日々単純な会話ですませず、意識的に語彙を増やすことで、人間的にも文化的にも成長できる。教養というものは富士山の裾野のように開かれていた方がいいし、山も裾野が広くないと、なかなか高くはなれないものですよね。それと同じで、子どもの頃からある程度の語彙力が育っていると、一生において知性が身につくということが言えると思います」(斎藤氏 以下同)

語彙力があるかどうかで、生涯年収にも変化が生じる可能性があるという。

「僕は、大学で25年近く教えていますが、その子たちが、それぞれどういう収入で生涯を送るか…自ずと目の当たりにしています。大学には、能力的に似ている人たちが集まりますが、生涯年収は“どこに所属するか”で決まります。転職や起業で年収が伸びる人は少ないので、だからこそ、一般論で言うと、最初の就職が肝心。就職活動のわずか3カ月くらいで、だいたいの生涯年収が決まってしまうわけです。そこで一番最初に問われるのが、語彙力やコミュニケーション能力。言葉やコミュニケーションで円滑にやりとりができないと、面接にすら通りません」

当たり前のようではあるが、就活では、“的確な会話のキャッチボールができるかどうか”が一番のポイントとなる。

「まずは言われたことに対して、“何を言われているのか”相手側の意図を察知してしっかりと返すこと。“その答えはちょっと的外れじゃない?”ということを連発していると、的外れが癖になってしまいます。相手の意図を察知するためには、言葉を理解する力が必要ですし、“こう聞かれたらこう答えよう”ということが、普段の親子の会話のなかでも、しっかりと行われているかどうかが重要です」

●家庭でも、スパッと答えられるような練習を!

ここまで理解してみると、親が子どもの教育において、ある程度の緊張感を持つことが大切だということがよくわかる。

「日々の生活のなかでできるだけ親が質問をし、子どもが返すということを意識することが大切です。“えーと、えーと”“よくわからない”は禁止。とりあえずスパッと答えられるように練習してみましょう。この“スパッ”と答えるが、明るい印象にもつながります。言葉がこもりがちでハッキリしない印象だと、社会に出た時、ちょっと大変かもしれません。だからこそ語彙力は必要ですし、家庭内での責任が大きく問われるのです」

子どもの語彙は、親が使う語彙によって大きく左右されるという。

「だからこそ、時には新聞やテレビのニュースを題材にして、親子で一緒に語彙を増やす努力をしてみましょう。電子辞書をいつもリビングに置いて、わからない言葉が出てきたら、一緒に調べてみてもいいですね。“この言葉はどんな言葉に言い換えられると思う? どんな意味があるのかな?”と、親子でパソコンや電子辞書を使って調べてみる。これはかなり効果的かなと思います」

特に子どものうちは、親が意識することですぐに語彙が増え、言葉遣いもうまくなると語る齋藤先生。わが子が大学生でも、まだ手遅れではないそうなので、まずはやれることから始めてみては?

(取材・文/蓮池由美子)

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