10年で1・7倍 なぜコインランドリー

街中でコインランドリーを見かけることが増えました。仙台市内の店舗数は10年前の約1・7倍にもなっています。近頃の店は明るく清潔感があり、布団の丸洗いができるなど進化を遂げています。競合店が増えるにつれ、プラスアルファのサービスで差別化を図る動きも出てきています。これから梅雨時期に強い味方になりそうです。(編集局コンテンツセンター・佐藤理史)

青葉区宮町通周辺は800メートルに新旧6店ずらり

 全国展開のチェーン店による出店攻勢が続き、市内各所で激戦区が生まれている。宮城野区二十人町には市道元寺小路福室線の280メートル区間に、10年以内にできた3店が並ぶ。青葉区の宮町通周辺の約800メートル区間では新旧の6店が張り合う。

 宮町通沿いに昨年3月オープンしたのは「ピエロ」。業界3位の492店(5月現在)を展開する「センカク」(東京)のチェーン店だ。今年3月、青葉区上杉、太白区鹿野にも出店し、市内計9店に広がった。

昨年3月オープンの「ピエロ宮町店」=2022年5月13日、仙台市青葉区宮町

 近くの宮町4丁目には「Baluko Laundry Place(バルコ ランドリー プレイス)」が昨年7月、東北地区での初出店を果たした。スタイリッシュな内外装を特徴とし、FC本部の「OKULAB」(東京)は創業から6年ほどで、関東を中心に158店(5月現在)に広げた。

昨年7月開店した「Baluko Laundry Place仙台宮町」=2022年5月13日、仙台市青葉区宮町

メインの役割は洗濯から乾燥へ 利用者も学生からファミリー層に

 仙台市各区保健所支所のまとめによると、市内のコインランドリーは2012年度末に100店だったが、毎年増え続けて21年度末は169店となった。18年度は1年で17店増えた。

 メインの役割は洗濯から乾燥へと移り変わっている。かつては洗濯機を持たない単身者や学生が近所の小さな店で衣類を洗濯した。近年はファミリー層が洗濯物を車で持ち込み、大型乾燥機に入れる利用が増えた。共働き世帯の増加に伴い、家事の時短に活用されている。

 「誰が何を洗ったか分からない洗濯機を使いたくない」と衛生面から敬遠する人はいたが、現在の機器は利用前に槽の洗浄やリフレッシュ(送風運転)ができ、清潔感が増した。

 利便性も向上。待ち時間を快適に過ごせるよう漫画、Wi-Fi、キッズスペースなどを備える。実際に店に行かなくても、洗濯乾燥機の空き状況がインターネットで分かる。

 新たな客の取り込みに一役買っているのが布団の洗濯だ。羽毛布団1枚をクリーニングに出すと、仕上がりまで約2週間、料金は5000円前後かかる。コインランドリーなら約1時間、1000~1500円で済む。ダニ対策にも有効。丸洗いでアレルゲンを取り除き、高温乾燥でダニを死滅させることができるとされる。

 太白区のITエンジニア女性(51)は「布団が洗えると知り、4年前からコインランドリーを利用するようになった。干すよりふかふかになるし、きれいな状態で次のシーズンまで保管できる」と魅力を語る。

利回り12%、投資対象として魅力 節税効果もあり

急速に店舗数を増やしている「マンマチャオ」=2022年5月10日、仙台市太白区富沢

 コインランドリー経営は有利な投資対象として注目を集めている。「マンマチャオ」の店名で業界2位の全国591店(うち仙台市内6店、4月現在)を展開する「エムアイエス」(東京)によると、約25坪の中規模店の場合、初期投資は機器購入や工事費で3500万円が相場となっている。月約100万円を売り上げれば、約35万円が手元に残ると見積もる。

 投資額に対する収益割合は年12%程度となり、8~10年で投資額の回収を目指す。条件を満たせば、減価償却費を一括して損金に算入することで納税額を減らす「即時償却」が認められ、大きな節税効果がある。マンション投資などより優位性があるとするうたい文句に引かれ、FC店経営に乗り出す人は少なくない。

 基本的に無人で経営できる点も参入のハードルを下げている。運営業務は清掃、洗剤補充、集金が柱で、専門知識はそれほどいらない。利用者のトラブルや機器の故障に備え、FC本部は24時間体制のコールセンターや遠隔操作システムを提供し、経営者の負担を減らしている。

 エムアイエスの担当者は「立地や家賃を吟味するのはもちろんだが、開店してからが大事。小まめな清掃、プリペイドカードを使った販促活動など、リピーターを増やす努力は欠かせない」と念を押す。

 コインランドリー業界はコロナ禍でも右肩上がりに推移しているが、伸び率は鈍化が見込まれる。矢野経済研究所(東京)の21年調査によると、市場規模は2020年に1001億円で、16年の770億円から30%増となった。今後は21年1011億円、22年1016億円と年平均1%以下の成長率と推計する。

 同研究所は「好調な業績と店舗拡大を続ける事業者がいる一方で、拡大ペースが急激に鈍化し既存店の売上高が前年比で減少を続けるなど不調な事業者も増えてきており、市場の拡大ペースは今後大きく鈍化していく可能性が高い」と分析する。

業界関係者はなおも強気 サービス多角化で需要掘り起こしに躍起

右手のドアでコインランドリーとつながるカフェ=2022年5月16日、仙台市太白区中田町のエンリッチランドリーサロン中田サロン

 業界関係者は成長の余地があるとみる。業務用洗濯機などを輸入販売する「ダイワコーポレーション」(横浜市)が21年、2000人に実施したインターネット調査によると、コインランドリーを1年以内に利用した割合は30・3%。年代別で20、30代が高く、男女差はほとんどなかった。

 7割は利用していない状況を踏まえ、ウェブ版の業界誌「ランドリービジネスマガジン」の前沢優希編集長(30)は「見込み客がいる既存店の周辺を中心に、今後も新規出店は続くだろう。待ち時間に提供するサービス、はっ水や防ダニといった洗いメニューの充実化など需要を深掘りしていけば、まだまだ伸びる分野だ」と見通す。

 競争が激しくなる中、生き残りを懸け、各店は差別化に知恵を絞っている。

 太白区中田町の「エンリッチランドリーサロン」は入り口が2カ所ある。左はカフェ、右はランドリーになっていて、店内のドアで通り抜けできる。総合サービス業のアオバヤ(仙台市泉区)が3年前に開店し、泉区高森に姉妹店がある。

 ランドリー利用者は通常385円のコーヒーが110円で味わえる。「洗濯にかけていた時間を息抜きや心のゆとりにつなげてもらいたい」と担当者。32席あり、チキンカレーやチーズケーキも提供する本格的なカフェとなっている。

 平日は主婦グループ、週末は家族連れが訪れる。カフェだけの利用者は半数ほどいる。「洗濯機の使い方や乾燥時間の目安といった質問にも、店員がきめ細かく答えられる。カフェの雰囲気を気に入ってもらい、遠方から洗濯しに来てくれるお客さんもいる」と相乗効果を感じている。

米国流に洗濯代行も 折り畳みサービスで付加価値

洗濯(WASH)、たたむ(FOLD)のサービスで付加価値を高める=2022年5月13日、仙台市青葉区二日町のWASH&FOLD仙台二日町店

 20年8月オープンの「WASH&FOLD仙台二日町店」(青葉区)は洗濯代行で付加価値を付ける。FC本部「アピッシュ」(東京)が05年、米国などで普及しているサービスを国内に持ち込んだ。

 専用バッグに詰めた洗濯物を定額で洗い、手でたたんで渡す。利用者は店に持ち込むか、集配を依頼する。料金はスモールバック(約4キロ)の店頭受け渡しで1650円。当日仕上げもできる。集配は市内で別途1100円かかる。

 建設業から多角化したオーナーの村上正樹さん(44)は「洗濯代行は単身赴任者やレストランに利用され、少しずつ浸透してきた。有人のランドリーなので、店内はきれいに保たれるし、利用者の安心感もあるだろう」と話す。スニーカーの手洗い、布団丸洗い代行などにも力を入れる。

 異業種からの参入が加速し、さまざまな併設店が生まれている。

 ファミリーマート(東京)は20年12月、東北初のコンビニエンスストア併設店「ファミマランドリー」を太白区西中田にオープン。

 ENEOS(エネオス、東京)は21年12月、東北初のガソリンスタンド併設店「エネオスランドリー」を福島県いわき市小名浜に設けた。

 書店、ドラッグストア、スポーツジムの事業者がコインランドリーに乗り出した例もある。

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