3県で300隻余の漁船が「沖出し」

今回の地震で津波注意報が発表された新潟県と山形県、それに石川県の3県では、少なくとも合わせて300隻余りが、港に係留する漁船を沖合に避難させる「沖出し」を実施していたことが分かりました。東日本大震災では犠牲者が相次いだことから専門家は「地域の実情に合わせたルールづくりを急ぐべきだ」と指摘しています。

東日本大震災では東北の沿岸からは多くの漁船が「沖出し」を行い、犠牲者が相次ぎました。

今回、NHKが津波注意報が発表された3つの県の漁協を取材したところ、少なくとも合わせて300隻余りが「沖出し」を行っていたことが分かりました。

このうち震度6強を観測した新潟県村上市にある新潟漁業協同組合山北支所では30隻が、石川県漁業協同組合の輪島支所では、所属する船の大部分にあたる200隻が「沖出し」を行ったということです。

港に係留中の漁船の「沖出し」をめぐっては、水産庁もガイドラインの中で、その危険性を指摘したうえで、実施をする際には、それぞれの漁協でどのような場合に行うのかを定めたルール作りを進めるよう求めています。

津波など災害時の危機管理に詳しい、東京大学大学院の片田敏孝特任教授は「漁業者にとって船は生活の糧でもあり、沖出しをすべて禁止するのは難しい。ただ、過去には犠牲者も出ているので地域の実情に合わせたルールづくりを急ぐべきだ」と指摘しています。
【漁業者「危険なときは行わないが 船は財産」】新潟県村上市では、津波注意報が発表される中、多くの漁業者が漁船を守るために「沖出し」をしていました。

集落が日本海に面する鵜泊地区に住む漁業者の本間常男さん(63)は、大きな揺れを感じると、すぐに津波が来ると考え、家族が高台へ避難する中、ほかの漁業者たちと船が係留されている漁港へ向かいました。

到着した時には多くの船が沖へと向かって動き出していて、本間さんもすぐに船を出したということです。

本間さんによりますと、鵜泊地区を含む村上市の沿岸部の漁業者は、大きな地震が起きると津波が来ることを予想して、これまでにも「沖出し」を行ってきたということです。

本間さんは、「東日本大震災のような大津波など危険だと思う時にはさすがに『沖出し』は行わない」としたうえで、「津波が来ると潮が引いて船底が傾き、水をかぶって船が使えなくなってしまう。危ないかもしれないが船という財産を守るためにはやむをえない」と話しています。
【各地の沖出し避難】NHKが津波注意報が発表された新潟県と山形県、それに石川県の沿岸にあるすべての漁協に取材したところ、少なくとも300隻余りが港に係留する漁船を沖合に避難させる「沖出し」をしていました。

このうち震源に近く震度6強を観測した新潟県村上市にある新潟漁業協同組合山北支所では、30隻が「沖出し」をしたということです。

漁協によりますと、津波注意報の情報が入ってからすぐに漁業者どうしで連絡をとりあい、過去の経験から津波が来ても被害が少ないと考える港から5キロの沖合にそれぞれ船を避難させたということです。

また、石川県漁業協同組合輪島支所では登録されている船の大部分にあたる、およそ200隻が沖出しをしたということです。

一方、「沖出し」に関するルールはいずれの漁協でも作っておらず、「沖出し」を行うかどうかは各漁業者の判断に任せられているということです。
【ルール作りは一部にとどまる】全国の漁協の中には、「沖出し」を行う際のルールを作っているところもあります。

このうち北海道根室市の落石漁協では、専門家から津波の特徴などを学んだうえで、平成25年に全国に先駆けて「沖出し」のルールを作りました。

この中では、操業していた場合と、港に船を係留していた場合に分けて、予想される津波の高さや津波が到達するまでに残された時間などによって沖出しすべきかどうかなど細かく定められています。

実際に、ルール作りの最中に東日本大震災が発生しましたが、適切に「沖出し」を行え、漁業者の命と船を守ることができたということです。

また、青森県では各漁協が適切に「沖出し」を行うために、支援に乗り出していて、ルール作りのための手順などをまとめたマニュアルを作成しました。

一方で、専門家によりますと、このようなルール作りは漁協にとっても負担が大きいため、依然として一部にとどまっているということです。

津波など災害時の危機管理に詳しい、東京大学大学院の片田敏孝特任教授は「漁業者の中には、船を守りたい一心でとりあえず沖出しすればいいという認識の人も少なくない」と指摘しました。

そのうえで「漁業者にとって船は生活の糧でもあり、命を守るために沖出しをすべて禁止するのは難しい。ただ、過去には犠牲者も出ているので地域の実情に合わせたルールづくりを急ぐべきだ」と話しています。

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