45年の時超え カラー再現「総天然色ウルトラQ」

【人気商品開発ヒストリー】円谷プロダクション
 特撮作品の金字塔が45年の時を経て、カラーになって帰ってきた。数々の特撮作品を世に出した円谷プロダクション(東京都渋谷区)の原点といえる『ウルトラQ』に極めて自然な着色を施した『総天然色ウルトラQ』が、ブルーレイディスク(BD)やDVDで発売され、反響を呼んでいる。(兼松康)
 ウルトラQは昭和41年に放映された円谷プロ制作の特撮ドラマだ。主人公は怪獣が出現したり不可思議な現象に遭遇したりして、一つ一つ乗り越えていく内容だ。平均視聴率が30%を超える人気番組で、今でも根強い人気を誇る。円谷プロ・コンテンツ事業部の堤崇行さんは、モノクロだったこの作品をカラー化しようという話は「実は20年前からあった」と明かす。
 実際に具体化することになったのは平成20年。当時の岡部淳也副社長がカラー化を正式に指示した。そこから、モノクロ映像に色を付ける取り組みが始まった。
 調査をしたところ、米国サンディエゴのレジェンドフィルム(現・レジェンド3D)がカラー化の高い技術を持っていることが分かった。映像の品質を確かめるため、試しに1話分だけ制作することにした。その年の12月のことだ。試作には、屋内と屋外の撮影がバランスよく、カラー化の点検に適していると思われた第13話(『ガラダマ』)が選ばれた。
 カラー化された第13話は、翌年3月に届いた。すぐに主演の3人、監督を務めた梶田興治さん、飯島敏宏さん、満田●(みつた・かずほ)さんらを招き、試写会を開き、出来栄えを確認した。
 参加者の印象は「肌が黄色っぽい」だった。
 「欧米で考えられているアジア人の肌の色」(堤さん)に仕上がっていたためで、タクシーの色やオフィス家具の色も日本で使われている色とは違う、米国のような色使いだった。
 それでも、カラー版が視聴者を引きつけるであろうことは、確信した。着色の問題点を解決する条件で、カラー版の制作を決定した。着色問題を乗り切るため、専門組織、ウルトラQ着色委員会を作った。
 委員会では委員がそれぞれの専門分野を担当した。製作プロデューサーの隠田雅浩さんは映画や映像制作分野の技術者として、現在の技術でできることを制作に取り入れて監修した。企画監修室長で造形師の品田冬樹さんは、怪獣のデザインやデザイン画などを参考に、怪獣の色彩設定を受け持った。主演の一人、桜井浩子さんは衣装の色などをチェックした。
 撮影時の色をできるだけ忠実に再現するため、当時の写真や資料をかき集めた。映像に映っている風景は図書館などで資料を探し、観光協会などに協力を仰いだ。
 鉄道や自動車には愛好家が多いため、細心の注意を払った。「こんな色はない、と指摘を受けないように」(品田さん)するためだ。
 怪獣の色にも気を配った。「基本は灰色や茶色。ただ同じ灰色でも青みがかっていたり赤みがかっていたり。写真では茶色でも、土をかぶったり、水にぬれたりすると色合いは違う」(同)ため、場面ごとに色を使い分ける必要があった。
 カラー化をためらう場面もあった。「モノクロだからこそ出せた怖さが、カラーになると薄れるのではないか、と考えることがあった」(隠田さん)ためだ。
 たとえば、暗い洋館が舞台となった第9話(『クモ男爵』)では、冒頭の暗さで演出した怖さが見どころだった。「このため、冒頭は必要以上に鮮明な着色を避けた。後半に進むにつれて明るくし、美術セットの素晴らしさも見られるようにした」(同)という。
 原作に忠実であることより、「原作の持つ雰囲気や意図に忠実であるよう心がけることになった」と品田さんは振り返る。
 総天然色ウルトラQはこうして出来上がった。これまで過去の作品のカラー化は、アニメではいくつか例がある。だが実写作品としての製品化は、「おそらく前例がない」(品田さん)。
 コンテンツ事業部の堤さんは、「ウルトラQは何度も見た。見るたびに新しい発見があるから面白い。カラー化は新たな見方の一つだ。多くの人に楽しんでもらって、またウルトラQのような作品を作りたいと思う人が出てくればうれしい」と期待を寄せる。
【用語解説】ウルトラQ
 昭和41年にテレビ放映された円谷プロダクション制作の、怪獣や怪奇現象を題材にした、全28話の特撮ドラマ。劇場映画と同様に35ミリフィルムで撮影された。今年は放映開始45周年にあたり、円谷プロはカラー化した『総天然色ウルトラQ』をブルーレイディスクやDVDで発売したほか、関連イベントを開催したり、関連書籍を発売したりと力を入れている。同じく円谷プロが制作したウルトラマンも今年が45周年で、夏に行われた毎年恒例のイベントは多くの客を集めた。来年3月には新作映画『ウルトラマンサーガ』が封切られる。
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