<お先に地方創生>わくわくする海を再び

◎宮城の移住者たち(9)千葉→七ヶ浜 久保田靖朗さん

開業を祝うテープカットは、土砂降りの雨に見舞われた。4月28日、宮城県七ケ浜町菖蒲田浜。カフェレストラン「SEA SAW(シーソー)」の運営会社代表、久保田靖朗さん(33)の表情は、それでも晴れやかだった。
「ここから復興ののろしを上げます」
レストランのすぐ東側に防潮堤がある。敷地内に設けたトイレ・シャワー棟の階段を上れば、防潮堤の向こう側の浜が見える。1888(明治21)年に開設された東北有数の歴史を誇る菖蒲田海水浴場だ。
菖蒲田浜地区は、東日本大震災で高さ12メートルの津波に襲われ、33人が犠牲になった。町内で最も被害が大きかった地区は、震災から5年が経過してもほとんど更地のまま。日が沈むと、レストランの明かりだけが暗闇に浮かび上がる。
久保田さんは千葉県柏市出身。都内の大学を中退後に音楽活動を経て、青年海外協力隊として2010年1月、アフリカ・モザンビークに派遣された。東日本大震災の発生は、現地滞在中に知った。
12年1月に帰国後、ボランティアなどとして東北に入った。転機が訪れたのは菖蒲田浜で7月に開かれたイベントだった。
実行委員会に入り、音楽活動の経験を生かしてステージを担当。出演者が登場する合間に、曲を流した。レゲエ歌手ボブ・マーリーの「ワン・ラブ」。来場者たちが「いいね」とリラックスした表情を浮かべた。
「震災の翌年で、被災地ではイベントを楽しめない雰囲気もあった。でもやっぱり、海は、ビーチはわくわくする空間」
自分にもできることがある-。そんな思いを強くした。
13年には、地元住民と話し合って地区の未来像「仙台圏の週末リゾートとしての菖蒲田浜」を提言。浜でのイベント、清掃活動も続けた。レストラン開業は「地域の誇りを取り戻す」を合言葉にした一連の活動の一つだ。
地元の人たちからは「ようやくやりたいことが絞れたみたいだな」(自営業の男性)と厳しくも温かい言葉を掛けられる。経営には不安もあるが、まずは第一歩を踏み出した。
「地方には、余白がたくさんある」と実感する。現在のもう一つの肩書は町観光協会副会長。今夏、震災で休止していた菖蒲田海水浴場が試験的に再開され、観光協会が運営を担う。活躍の場はさらに広がる。(塩釜支局・山野公寛)

●Welcome七ケ浜町のケース
東日本大震災の被災者の生活再建が優先課題の七ケ浜町は前年度、災害公営住宅と高台住宅団地の整備を終えたばかり。今後、津波で打撃を受けた沿岸部4地区 の復興土地区画整理事業を重点的に進め、水産加工場や商業店舗の誘致といった「にぎわい」の創出と同時に、居住エリアを整備して定住を促す計画だ。本年度 は、町内の空き家の数を把握するための調査にも着手する予定。

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