宮城県内の病院や福祉施設を情報通信技術(ICT)で結び、患者情報を共有して医療の効率化や災害対応強化を図る「みやぎ医療福祉情報ネットワーク(MMWIN、みんなのみやぎネット)」の加入者が3月、10万人を超えた。東日本大震災のカルテ流失を教訓とした医療復興の目玉事業。一般への認知度アップが課題だ。
みやぎネットは治療、投薬などの患者情報を電子化し、組織間で共有する仕組み。東北大病院を中心として2013年に運用が始まり、加入団体の利用料と補助金で運営されている。
最大規模に成長
MMWIN協議会によると、今年3月時点の加入者は10万3671人、病院や薬局などの加入団体は950施設。診療データのバックアップ数は1000万件を超え、いずれも全国約300ある医療情報ネットで最大規模に成長した。
協議会副理事長の中山雅晴東北大教授は「沿岸、内陸の拠点病院が普及を後押ししてくれた」と話す。
一般県民の加入は無料で、自らの医療情報の共有に同意してIDカードの発行を受ける。複数の病院を受診する際に診療や投薬の無駄を省け、大規模災害時に備えたデータのバックアップにもなる。人工透析や眼科診療の分野で、診療履歴や画像の共有が生きているという。
ただ「普及は大病院とその患者が中心で、小規模診療所には費用対効果がネック」(仙台市内の開業医)というのも実態だ。かかりつけ医が導入に後ろ向きなら、一般患者にとってはなおさら縁遠くなる。
診療所と介護施設の加入率は、病院の6割に対して1割台。東松島市は昨年、地域包括ケアの充実を図るために自治体として初めてみやぎネット加入に踏み切ったが、思うような成果が見込めず今年は接続を中止した。
利便性向上図る
こうした状況を打開しようと、協議会はより地域に普及の軸足を移す構え。「タブレット端末活用などで、薬局や介護施設の利便性向上に努めたい」と担当者は話す。
医療の無駄を省き社会保障費の増大に歯止めをかけようと国が推し進めるICT導入。だが、補助金頼みの体質からこうした医療情報ネットは全国で存続の岐路にあるとされる。
中山教授は「複数の疾病を抱える高齢化社会が進む中で、情報共有は不可欠。運営コストを削減し、患者本位のシステムとして理解を広めたい」と話す。