全国の個性豊かなキャラクターが人気を競う「ゆるキャラグランプリ(GP)」。今年は本物さながらの“組織選挙”を展開する自治体が出現し、「たかが、ゆるキャラ」とは思えない熱戦が展開されている。インターネット投票の締め切り(11月8日)を前に、「ゆるくない選挙現場」をのぞいた。【喜屋武真之介】
【名前、全部言える?】さまざまなゆるキャラを写真で
群馬県庁1階ホールで今月8日、GPにエントリーした県のマスコット「ぐんまちゃん」の“総決起集会”が開かれた。県内各地のゆるキャラたちが愛嬌(あいきょう)を振りまく中、県職員や一般のファンら約350人が集まった会場で、県議らは幼稚園児たちよりも興奮して、野太い声で「頑張るぞ!」と全員が拳を突き上げた。魅力度調査で下位に低迷する同県にとって負けられない一戦なのだ。
同GPは2010年に始まり、メールアドレスを登録すれば誰でもネット上から1日1回投票できる。PRのために自治体が生み出した「ご当地キャラ」を中心に、今年は過去最多の1500体以上がエントリー。投票総数は11年333万票、12年660万票で、競争は年々激化している。
浜松市の「出世大名家康くん」や栃木県佐野市の「さのまる」は、今年初めて市長を本部長に“選対本部”を結成。出陣式などで役所内の結束を強め、職員たちは団体や企業回りで組織票を固めている。佐野市内にはキャラクターをデザインしたバスが、浜松市にはタクシーが走り、両市長自らゆるキャラと街頭に立って投票を呼びかけるほどだ。得票数が公表されていた今月7日の時点で、家康くんは約32万票で1位を独走、天下取り目前だ。さのまるも約24万票で2位、ぐんまちゃんは約17万票の3位で追い上げに必死だ。
「今どきこんな経済効果をもたらしてくれるものは他にない」。浜松市の鈴木康友市長は投票開始前の9月3日、ある集会でそう強調した。各自治体の念頭にあるのは11年に1位になった熊本県の「くまモン」。同県は今年2月、くまモンを利用した商品の12年の売り上げが少なくとも293億円に上ったと発表した。具体的な数字が出たことで、今年は組織票を集める動きが一気に過熱した。
「ゆるキャラ論~ゆるくない『ゆるキャラ』の実態~」の共著があるデザイナーの犬山秋彦さんは「人気投票ではなく、組織票がないと勝てない仕組みになりつつある」と分析。「票固めは地元愛の表れでもある」と評価する一方で「“ゆるさ”がなくなっていることに寂しさを感じるファンもいる」と懸念する。
関西学院大の奥野卓司教授(文化人類学)は「上位に入れば一時的なPRにはなるだろうが、生き残っていくのは意図せず人気が出てきたようなキャラ。流行に乗るだけではいつの間にか忘れ去られていく」と手厳しい。犬山氏はさらに「ゆるキャラはすでに文化として定着した。過度な期待がなくなって落ち着いた後、GPがゆるキャラのお祭りとしてもっと純粋に楽しめるイベントになってほしい」と期待する。
結果は11月24日、埼玉県羽生市で開かれる「ゆるキャラさみっとin羽生」で発表される。