<クレームストーカー>窓口女性に恋愛感情隠し接近

接客や窓口業務などを担当する女性が、仕事に対する苦情を名目に客の男からつきまとわれる「クレームストーカー」の被害が増加し、企業や自治体が対 応に苦慮している。ストーカー行為の疑いが濃厚だが、ストーカー規制法の構成要件である恋愛感情を隠すことで、警察への通報を避けようとする加害者もい る。専門家は「凶悪事件に発展する前に被害者を加害者から引き離し、弁護士を立てたり警察に相談したりするなど毅然(きぜん)とした対処が重要」と指摘す る。【林奈緒美】

◇法くぐり潜在化

全国で店舗を展開する育毛サロンの店長だった30代女性は、客の男から約7カ月にわた りつきまとわれた。最初は特別な様子はなかったが、次第にシャンプーなどの商品やサービスへのクレームを理由にしつこく面会を要求された。女性が他の業務 で対応できないと「店長を出せ」などと声を荒らげることも。店側は料金を返す代わりにサロンからの退会を求めたが応じず、女性は別の店に移らざるを得な かった。

その後、男は「精神的苦痛を受けた」として女性個人に慰謝料を求めて提訴。客とのトラブルで評判が落ちることを心配した店側が慰 謝料の支払いを肩代わりし、以後つきまとい行為はなくなったという。サロンの法務担当者は「クレームは理不尽なものばかりで女性が目当てだったことは明ら か。裁判を起こしたのも女性との接点を持ち続けるためだろう」とみる。

東京都内の自治体で就労支援窓口を担当する20代の女性職員は昨年 の約半年間、求職中の若い男からつきまとわれた。男は女性の名札で名前を覚え、ほぼ毎日、職場に電話してきたり窓口に何時間も居座ったりした上、「女性の 態度が悪い」などと文句を言った。不在の際は「本人に謝罪させろ」などと要求。自治体側が弁護士に相談し、つきまとい行為の中止を求める文書を内容証明郵 便で送ると姿を見せなくなったという。

企業向けの危機管理コンサルタント会社「平塚エージェンシー」(東京都千代田区)には約3年前から こうした相談が毎月数件寄せられる。社長の平塚俊樹さん(46)は「男性の中には女性から丁寧に接客されると、『自分に好意がある』と勘違いする人がい る。手に入らないならいっそ相手を苦しめたいと考え、つきまとうのでは」と分析する。

業務への苦情を装うため、企業などが内部で処理して警察に届け出ないケースもあるとみられ、表面化していない被害はさらに多いと指摘。平塚さんは「1人でなく複数で対応し、早期に弁護士を立てるなどしたほうがいい」とアドバイスする。

◇規制要件、意見割れる

ストーカー加害者が業務への苦情を装うのは、ストーカー規制法が仕事や近隣トラブルなど恋愛感情以外の理由によるつきまといを規制対象外にしている事情が ある。ただ、「恋愛感情」の目的要件を撤廃すると、取材や調査活動なども含め幅広く取り締まりの対象になる恐れがあり、専門家の間でも意見は割れている。

「金を返してほしかっただけ」。元交際相手の女性(46)宅に何度も押し掛けたとして、千葉県警に昨年3月逮捕された会社員の男(36)は調べにそう供述したという。

男は交際中、頻繁にプレゼントを送り、金銭的な援助もしていたが、県警幹部は「復縁したかっただけ」とみる。

しかし男が強く否定したため、県警はストーカー規制法違反での立件を見送り、みだりにつきまとうことを禁じた県迷惑防止条例違反容疑で逮捕した。毎日新聞の調べでは、1月8日時点で大阪や福岡、三重など34都道府県に同様の条例がある。

恋愛感情の目的要件を巡っては、昨年8月にストーカー規制の在り方について報告書をまとめた警察庁の有識者検討会でも議論になった。「撤廃すれば被害者が 警察に相談しやすくなる」との意見がある一方、「規制範囲がむやみに拡大する」との懸念もあり、最終的には今後の検討課題とされた。

これ に対し、ストーカー相談を数多く受けているNPO「ヒューマニティ」(東京)の小早川明子さんは「条例で対応している自治体もあるが、ストーカー規制法の ようにつきまとい中止を命じる警告は出せない。被害者は恋愛感情のあるなしに関係なく苦しんでおり、目的要件は外すべきだ」と訴える。

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