東邦銀行とみずほフィナンシャルグループ(FG)は2018年6~12月、福島県富岡町の商業施設などで、スマートフォンQR決済の実証実験をした。結果は1日40件前後の利用があった。
同行総合企画部の大野隆審議役は「少額でも現金ではなくスマホ決済をする買い物客が一定数いて、手応えを感じた」と振り返る。
政府は、キャッシュレス決済比率を現在の18%から25年までに40%に上げることを目標に掲げる。現金管理を担う銀行も今後、容赦なくキャッシュレス化の波にさらされる。
<メリット少なく>
先陣を切ったのがみずほFGだ。今月1日、独自のスマホQR決済「Jコインペイ」を始めた。預金口座があれば、加盟店での決済や利用者間の送金などがアプリで行える。全国約60の地方銀行の口座もアプリに登録できるようになる。
東北では4月以降、七十七、山形、東邦など10行がJコインペイに参加し、他の地銀も順次加わる見通しだ。しかし、本音では期待する地銀は多くない。
ITや通信などから参入が相次ぐスマホQR決済。ある地銀の担当者は「乱立するQR決済の違いを把握した上で、Jコインペイを売り込むのは困難だ」と打ち明ける。
Jコインペイは「金融機関ならではのサービス」が売りだが、現時点でインパクトは小さく、決済や送金の仕組みにも目新しさはない。先行するIT系などは商品販売なども手掛けて自社のポイントと連動できるが、金融機関では難しい。
別の地銀の担当者は「銀行が顧客データを集めても商品開発に活用するノウハウがない」と指摘。「顧客のメリットが少ない。加盟店を広げようとは考えていない」と断言する関係者もいる。
<割り勘利用PR>
ただキャッシュレス化が進み、現金管理コストが減ることは銀行にとってもプラスになる。地銀ならではの強みを生かしたサービスを模索する動きもある。
岩手銀行は「いわぎんアプリ」によるスマホサービスの導入を検討している。同行の預金者同士ならば電子マネーに変換することなく、QRコードを使うだけで送金できるようにする。
サービスの内容を分かりやすくPRするため、同行は小銭の支払いの煩わしさがなくなる飲み会の割り勘での利用を勧め、普及を図る。
同じような送金サービスは無料通信アプリのラインも実施しているが、同行システム部の担当者は「多くの県民が当行の口座を持っている。ラインで上司とつながることに抵抗がある若者も利用しやすい」と優位性を強調する。
いわぎんアプリでは取引先の店舗で使えるクーポンも発行される。小田中健リテール戦略部長代理は「スマホを通じた個人間送金になじんでもらい、キャッシュレス化を後押ししたい」と力を込める。