昨年秋からのスルメイカの記録的な不漁で、山形そばの定番「ゲソ天そば」が苦境に立たされている。イカゲソの品薄が響いて仕入れ値が高騰した結果、値上げやメニューから外す店が続出。冷たいそばとゲソ天の組み合わせは例年、夏に向かって注文が増えるだけに、店側は材料の確保に追われている。
山形市の人気そば店「すぎ」は、ゲソ天と盛りそばがセットになった「もりげそ」が看板メニューで、客の7割が注文する。ゲソの高値を受け、3月に値段を100円引き上げ、900円にした。
「ゲソ天の質と量を保つためには値上げせざるを得なかった」。店主の杉山豊次さん(72)は申し訳なさそうに話す。以前は1キロ400円程度で仕入れていたスルメイカのゲソは昨年秋以降に急騰し、今や倍以上の900円に迫る勢いだ。
そば店などでつくる県麺類飲食生活衛生同業組合によると、2~3月にかけて複数の店がゲソ天そばの提供を一時見合わせるようになったほか、やむなく値上げする店も広がっている。
「絶対量が足りず、市場では争奪戦状態」と打ち明けるのは天童市の水産卸「山形丸魚」鮮魚部長の山崎透さん(45)。スルメイカ1ケース(7.5キロ)の卸売価格は4000円程度だったが、昨秋からは8000円前後で推移している。
油で揚げても硬くならずぷりっとした食感が保てるのがスルメイカの特長。ヤリイカやアカイカなど、材料を他の種類に切り替えるのも難しいという。
品薄状態は少なくとも今秋の漁獲シーズンまで続きそうだ。北海道大名誉教授の桜井泰憲氏(海洋生態学)は、不漁の原因は産卵場所の東シナ海の水温が低く、ふ化が極端に少なかったためと指摘。その上で「イカは1年魚で、好条件がそろえば秋の漁獲シーズンに回復する可能性はある」と説明する。
ただ、ゲソ天そばの注文がピークを迎えるのは夏。ゲソ不足がさらに深刻化する事態をにらみ、各店はメニューにかき揚げを加えるといった工夫を迫られている。
[ゲソ天そば]山形県麺類飲食生活衛生同業組合などによると、山形県内陸地方に広まったのは30年以上前。山形市内のそば店がメニューに取り入れ、評判となったのがきっかけだという。店によって「もりげそ」などの呼び名で冷たいそばとセットになっていたり、「ゲソ天」をサイドメニューとして提供したりする。郷土料理の一つに数えられる。