盛ったご飯をえん堤に、ルーを水に見立てた「ダムカレー」を出す店が全国で増えている。「日本ダムカレー協会」によると、この3年で3倍に増え、現在150店以上。ダムの形を忠実に再現したものから、多様なトッピングで彩られたものまでさまざまだ。何が受けているのか?
協会を主宰する宮島咲(さき)さん(46)経営の和風レストラン「三州家」(東京都墨田区)を訪れ、さっそくダムカレーを注文した。深皿を半分に仕切るように、中央部分に少し曲がった壁のようにライスが盛られている。片側はカレーのルーで満たされているが、もう片側は底に福神漬けが入っているだけ。味はオーソドックスでおいしくいただいた。
「これはカレーではなく、アーチ式のダムです。造形美を楽しんだついでに、食べてください」。そう語る宮島さんは、ダムに関する著書もある「ダムマニア」だ。約20年前にたまたまドライブで訪れた古谷ダム(長野県)を見て、「何も言わずに生活を支えてくれている」と感動した。
ほとんどのダムは山間部にあり、周辺は過疎化に直面している場合も多い。「何かダムの役に立ちたい」と、ダムカレーを思いつき、2007年に店のメニューに載せた。貯水池の反対側から見るえん堤こそダムの「顔」だといい、ルーの反対側に野菜などを盛らないのも「ダムの顔を隠すわけにはいかない」からだという。ダムの形へのこだわりは強く、ライスの壁が薄くなっても“決壊”しない。記者が「一日何杯売れますか」と尋ねると、「ダムカレーは『何基』と数えます」と注意された。
国土交通省が各地のダムで配布している「ダムカード」が人気になるなど、ダムを観光資源として活用しようという動きも追い風になり、各地で地元の名産品などを使ったダムカレーが登場している。同協会のリストによると、現在、石川県以外の46都道府県にご当地のダムカレーがある。
「鶴田ダム」のある鹿児島県さつま町では先月から、町内の飲食店の約2割にあたる16店でダムカレーの提供を始めた。ライスは全店共通の型枠を使ってダムの形にし、具には地元特産の黒毛和牛やタケノコを使うなど各店が工夫を凝らす。地元の実行委員会の市囿(いちぞの)政秀さん(51)は「ダムカレーで地域を盛り上げていきたい」と意気込んでいる。
◇形にこだわり「ハート」も
全国各地のダムカレーで最も多いのは、皿の中央部にダムを模したライスを置き、その片側にルー、もう片側にカツや野菜を盛るタイプだ。日本ダムカレー協会の宮島咲さんによると、このタイプが全体の8割を占めるという。例えば、野洲川ダムカレー(滋賀県)は名物のシカ肉のカツと地元産の野菜がつき、ルーの上にはワカサギのフライをトッピングしてある。
一方、ハートのダムカレー(栃木県)や田子倉ダムカレー(福島県)はダムの形にこだわり、野菜などを盛らないシンプルさが売りだ。ハートのダムカレーは、珍しい平地型ダムの渡良瀬遊水池がモデル。ハートのかわいらしい形が人気だという。また、田子倉ダムカレーは上流側の田子倉ダムだけのメニューと、同ダムに加えて下流側の只見ダムも同じ皿に盛りつけるメニューがある。
また、愛知県豊根村では、村内の5店がそれぞれ工夫を凝らしたダムカレーを提供。中には、空から眺めた村の景色をイメージし、ダムのほかに二つの山を模したライスを配置したカレーもある。【柳楽未来】