スウェーデンのカロリンスカ研究所は3日、2016年のノーベル医学生理学賞を東京工業大栄誉教授の大隅良典氏(71)に授与すると発表した。大隅氏は生物が細胞内でたんぱく質を分解して再利用する「オートファジー(自食作用)」と呼ばれる現象を分子レベルで解明。この働きに不可欠な遺伝子を酵母で特定し、生命活動を支える最も基本的な仕組みを明らかにした。近年、オートファジーがヒトのがんや老化の抑制にも関係していることが判明しており、疾患の原因解明や治療などの医学的な研究につなげた功績が高く評価された。
【写真特集】ノーベル賞の大隅良典・東工大栄誉教授 「オートファジー」発見
日本のノーベル賞受賞は、15年の大村智・北里大特別栄誉教授(医学生理学賞)と梶田隆章・東京大宇宙線研究所長(物理学賞)に続き3年連続の快挙となった。受賞者数は、米国籍の故・南部陽一郎氏(08年物理学賞)と中村修二氏(14年同)を含め計25人(医学生理学賞4、物理学賞11、化学賞7、文学賞2、平和賞1)となる。授賞式は12月10日にストックホルムで開かれ、賞金800万スウェーデンクローナ(約9500万円)が贈られる。
生物は飢餓状態になると、自らの細胞を作り替えたり休眠状態になったりして乗り切ろうとする。このことは、哺乳類の冬眠や、粘菌がアメーバ状態から胞子を形成することなどを通じて古くから知られていた。細胞の内部で自らのたんぱく質を分解する仕組みがあることは1960年代に、ベルギーのドデューブ(74年ノーベル医学生理学賞)がマウスの臓器で見つけ、オートファジーと名付けていたが、分子レベルでは未解明のままだった。
大隅氏は東京大助教授だった88年、微生物の一種・酵母を栄養不足で飢餓状態にすると、液胞と呼ばれる小器官に小さな粒が次々とたまっていく様子を顕微鏡で見つけた。酵母が自らの細胞内にあるたんぱく質などを液胞に運び込み、さまざまな酵素を使って分解するオートファジーの過程だった。
さらに93年、飢餓状態にしてもオートファジーを起こさない酵母を14種類見つけ、正常な酵母と比較することで、オートファジーを起こす遺伝子を突き止めた。この遺伝子は酵母以外の動植物の細胞でも相次いで見つかり、この分野の研究は大きく進展した。
オートファジーは酵母のような単細胞生物からヒトなどの高等生物に至るまで共通して持っており、生物が生き延びるための基本戦略となっている。近年はパーキンソン病やアルツハイマー病などに共通する、神経細胞での異常なたんぱく質の蓄積を防ぐ働きをしていることが分かってきたほか、がん細胞の増加や老化の抑制にも関与していると考えられている。
大隅氏の発見を機に、年間数十本だった関連論文は今や同4000本にまで急増。近年最も発展している研究領域の一つとなっている。