<マクドナルド>定年制度復活 組織が“動脈硬化”で転換

「定年制廃止」を廃止--。日本マクドナルド(東京都新宿区)は、5年前に撤廃した定年制度を来年1月から復活させることを決めた。大手企業としては異例の雇用制度改革は、なぜ方針転換を迫られたのか。【井田純】
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 「定年という区切りがなくなったために、後進を育成しようとの意識が薄れ、業務のノウハウや情報の継承が後回しになってしまう場面があった」。日本マクドナルド(以下、マ社)の広報担当者は定年制廃止のデメリットをそう語る。
 具体的には、経理や法務の案件処理、店舗運営のノウハウなどの引き継ぎがうまくいかないケースがあったという。蓄積したものを抱え込み、業績を上げ続けることで、自らのポジションを長く守りたいとの意識が生じたとみられる。
 マ社が定年制度をやめたのは06年5月。その2年前には、年功序列型の人事・賃金制度を、職務に応じて報酬が決まる成果主義的な仕組みに転換し、中途採用も増やした。定年廃止は、経験豊かなベテラン社員の力を生かし「能力と成果に基づく処遇を徹底するため」と位置づけた。
 06年4月には改正高齢者雇用安定法が施行され、企業は▽定年年齢の引き上げ▽再雇用(継続雇用)制度▽定年廃止のいずれかが義務づけられた。ほとんどの企業が再雇用制度を選ぶ中、マ社の選択は注目された。
 「誤算」は他にもあった。「新しい分野へのチャレンジに社員が消極的になる傾向が見られた」と広報担当者。定年廃止で今の上司が残り続けると思えば、部下は「波風を立てず平穏に、と考えるようになる」という。
 元々、平均年齢が若く、実際に定年廃止の恩恵を受けた60歳超の社員は5年間で数人程度。人件費への影響は小さかったが、組織自体が“動脈硬化”を起こしてしまったことが痛かったようだ。
 日本の雇用制度を研究する慶応義塾大ビジネススクールの高木晴夫教授(組織行動学)は、マ社が成果主義や中途採用の強化と並行して、定年廃止を導入したことに着目する。要するに「仕事ができる人にどんどん入れ替える」発想だ。
 「誰もが辞めたり、代わりの人が次々に入る可能性がある組織では、『この人でなければ』という属人的な仕事はかえってマイナス。『ノウハウや情報の継承』を前提にした業務設計がそもそも成り立たない」と高木教授。そうした企業には、汎用(はんよう)の知識や標準化されたノウハウですぐに対応できる態勢こそが求められる--というのだ。マクドナルドの店舗といえば「徹底したマニュアル化」のイメージが強いが、オフィスワークではそんな面ばかりではないようだ。
 チャレンジ精神の低下については「日本の労働市場は流動性が低い。会社を出ても次の仕事が見つかる保証がなく、かつ定年もなければ、賢い人ほど失敗を避け安全策をとるのは当然」と指摘する。
 「日本の雇用システム」などの著書がある小池和男・法政大名誉教授は「業種や職種にもよるが、企業にとって最も重要なのは長期的な人材育成。その意味では、短期的な数字を求める成果主義はプラスばかりではない。定年制は長期的な雇用を前提としており、人材育成の点からも評価し直す必要がある」と話す。
 マ社は当面、60歳定年プラス再雇用制度を採用する予定だ。この5年間の経験を踏まえ「まずは人が人を育てる企業文化を醸成したい」。一方で「『適材適所』の観点から、定年制廃止が理想との考えに変わりはない」とも言い、再度の撤廃に含みを持たせる。さて、あなたの会社は?

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