日本の非正規雇用労働者の数は、1990年代前半のバブル崩壊後に経済が長期停滞した「失われた20年」の間に右肩上がりに増加し、その数は2015年 1~3月期平均で1979万人と、労働者全体の37.7%に達している。ここ数年は景気が比較的安定し採用環境も改善していることなどから、34歳までの いわゆる「若年フリーター」はピークの03年からは減少している。だが、90年代後半からの「就職氷河期」に直撃された世代を含む35歳以上の「中年フ リーター」については増加に歯止めがかかっていない。年金・保険などセーフティーネットの強化や正社員への転換を後押しする制度作りなどに社会全体で取り 組む姿勢が求められている。
現在、「中年フリーター」はどのくらい存在するのか。政府の明確なデータが存在しないため、その定義を「35~54歳の非正規の職員・従業員(女性は既婚 者を除く)」とし、雇用問題に詳しい三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部の尾畠未輝研究員に試算してもらった。
それによると、中年フリーターの数は90年代は130万人台で安定していたが、バブル崩壊から約10年が経過した2000年代に入ってから目立って増え始め、15年には273万人に達している。
非正規雇用は以前は主婦パートが中心だったが、その後、グローバル競争への対応を求められるようになった企業の雇用手法の変化などを背景に、世帯の主要な稼ぎ手であっても契約社員や派遣社員として働く人が増えていった。
「新卒一括採用」が今なお企業の主体である日本では、就職時に派遣社員などの形で非正社員として採用されると、中途で正社員に転換することはなかなか難 しい。これが、非正規労働を継続させる理由となり、就職氷河期のフリーター層が年をとり、「中年」の年代にさしかかっている。
尾畠氏は、非正規問題への対応について「賃金を一律に上げるのではなく、それぞれの仕事に見合った対価を支払う必要がある。景気が悪くなったら突然クビ を切るような不安定さには問題がある」と指摘。中年フリーターについては「長期的に同じ仕事を続けてきたなら、その技術を生かせるマッチングの機会を増や すなどの対応ができると思う。また、労働者側の意欲も大事だ」と指摘した。
就職氷河期にフリーターとなった経験を原点に作家活動をしている雨宮処凛さんは、毎日新聞のインタビューに「(非正規雇用労働者の問題に)どこかに決着 の地点があると思ったけれど、10年たってもまったくない。10年前は若者の貧困だったけど、今はもう若者じゃない。中年になっていて、それがどんどん初 老になり、高齢者になっていく」と強い危機感を語った。【尾村洋介/デジタル報道センター】