2020年東京五輪の聖火リレールートが、岩手で物議を醸している。県内33市町村のうち、コースから外された5町村は「不公平」「『復興五輪』の理念に反する」と怒り心頭。大会組織委員会に代わって批判の矢面に立つ県は、言葉少なにうつむくばかりだ。それぞれの言い分を聞いてみた。(盛岡総局・江川史織)
「格差があっては、五輪の喜びを共有できない」(鈴木重男葛巻町長)
ルートから外された葛巻、西和賀、住田、軽米の4町と九戸村は5日と20日の2回、組織委に再考を促すよう県に要望した。県は「5町村から要望があったことは組織委に伝えた」(スポーツ振興課)と事務的対応に徹する。
県内の聖火リレールートは地図の通り。1993年アルペンスキー世界選手権盛岡・雫石大会の舞台、雫石町で来年6月17日にスタートを切る。県は「世界的に注目を集めやすいことから選ばれたのではないか」と読んだ。
だが、スタート地点を少し手前に延ばせば、アフリカ・コートジボワールのホストタウン登録を目指す西和賀町だ。競技終了後に選手たちを町に招き、大会の疲れと緊張を癒やしてもらおうと計画している。
町民の一人は「聖火が来れば町も一層盛り上がると思うが、そこまでは望まない」と謙虚に語る。
住田町は東日本大震災でいち早く、独自の判断で仮設住宅を整備した。神田謙一町長は「被災者が暮らす町を外すのか」と嘆く。
県も住田町の人々が被災地の後方支援で果たした役割は重々承知で「組織委には全市町村を通過するよう要望していた」と釈明。県幹部は「東京は被災地の本当のことを分かっていない」と顔をしかめた。
葛巻、軽米、九戸の県北3町村は鈴木俊一・五輪相の地盤である衆院岩手2区に位置する。前述の県幹部は「政治家への忖度(そんたく)は問題だが、そのそぶりすら見せない組織委の度胸にも驚いた」。
聖火は二戸市から軽米町を飛び越えて洋野町に引き継がれる。軽米町の山本賢一町長は県町村会長だ。面目をつぶされ「5町村長の中でも一番怒っている」(ある首長)という。
あえて軽米町を飛び越える必要があったのか。県によると「リレーは隊列で実施し、次の市町村には車で移動する。県北地域は山が多く、日中の限られた時間内で通過するのは困難」と説明する。
さまざまな事情でコースから外された5町村。一方で「絶対に外せない」(組織委関係者)のが矢巾町と金ケ崎町だった。
矢巾町には日本コカ・コーラ、金ケ崎町にはトヨタ自動車が、それぞれ関連会社を置く。ともに東京大会の聖火リレーのスポンサーでは最高位の「プレゼンティングパートナー」。聖火リレーの隊列にも広告車両が加わる。県は「当然、最優先で選ばれたろう」とみる。
「リレー実施市町村に車や電車で1時間以内に行ける人口カバー率なら100%を達成している。5町村の皆さんには、この点を理解してほしい」と県スポーツ振興課。この説明で理解してもらえただろうか。