車間距離は「メートル」ではなく「秒」で確認--。九州大の松永勝也名誉教授(74)=安全科学=が提唱する「車間距離3秒」ルールを採用する動きが広 がっている。「危ない」と気付くまでに約1.5秒、ブレーキを踏んで停車するまでを約1.3秒と想定し、誤差も考慮し3秒分、前の車両との距離をとるとい うもの。追突事故の多さに悩む大分県警は今年度から交通安全運動のチラシに採用。佐賀県警も普及に乗り出している。【安部志帆子】
松永氏は消防署職員50人を対象に調査を実施。運転中に前方で起きた異変に気付き、アクセルペダルから足を離し、ブレーキペダルを踏んでブレーキが利き 始めるまでの時間は早くて0.6秒、ほとんどが1.5秒以内だった。さらに自動車工学の試算で、時速60キロで一般道を走行する車がブレーキの利き始めか ら停止するまでの時間は1.3秒以下。このため、松永氏は1.5秒に1.3秒を加え、誤差や分かりやすさも考慮して3秒とし、「3秒ルール」として 1995年から提唱している。
松永氏がルールを発案したのは「目で距離を判断する能力より、時間を数える力の方が信頼できる」と考えたから。3秒を計る際は、街路樹や信号機、電柱、 停止線などを目印に、前の車が通り過ぎた瞬間から、自分の車が目印を通過するまでを数える。「目標物(前)を見続けるので、脇見運転の危険性も少ない」 (松永氏)
ルールの採用に動いたのは大分県警だ。大分県では2009年以降、交通事故全体に占める追突の割合が40%を超え続け、昨年も事故総数5161件のうち約45%に当たる2323件発生。追突事故率は全国ワースト3位だ。
県警は今年度から3秒ルールを交通安全運動のチラシなどで採用し、普及に乗り出した。渡辺憲一・交通事故分析官は「周りの車間距離が短いと『流れに乗ろう』と自分も同様にしがち。その『当たり前』を変える必要がある」と強調する。
昨年、追突事故率全国ワースト2位の佐賀県警も昨春からルールを採用。地元ラジオ局の番組に警察官が出演し、「3秒空けて」と呼びかけている。
3秒の数え方にはコツがある。南福岡自動車学校(福岡県大野城市)によると、「1、2、3」では、実際の時間との誤差が大きくなるため、「1まる1、1まる2、1まる3」と数える方がいいという。同自動車学校では、実技教習中に数え方を教えている。
西日本鉄道(福岡市)は3月、松永氏を管理職向け講習会に呼び、3秒ルールの説明を受けた。管理職らは部下のバス運転手らにルールを伝えたという。5月 のバス事故件数が前年同月比で約2割減少したといい、同社広報室は「複合的な理由があるが『3秒』の取り組みもその一つ」と話す。