政府は、北京で1日に行った日本人拉致被害者らの再調査に関する日朝外務省局長級協議を受け、人的往来の制限などの制裁を解除する方針を固めた。3日に国家安全保障会議(NSC)を開き、安倍晋三首相が最終判断する。閣議決定は4日の見通し。北朝鮮側が特別調査委員会を発足させ、調査を開始するのと同時に解除する。北朝鮮が核・ミサイル開発を進める中、制裁を解除することに慎重論もあったが、首相が目指す拉致問題の全面解決には、調査の進展が欠かせないと判断した。【福岡静哉、村尾哲】
【日本が解除する主な北朝鮮への制裁】
◇人的往来など3分野
解除するのは、日本が独自に実施している(1)北朝鮮籍者や当局職員の入国禁止、北朝鮮への渡航自粛など人的往来の制限(2)北朝鮮への10万円超の現金持ち出しの届け出義務と、300万円超の送金の報告義務(3)人道目的の北朝鮮籍船舶の入港禁止--の3分野。5月末のスウェーデンでの日朝局長級協議で、特別調査委の調査開始と同時に解除することで合意していた。
政府は北朝鮮による2006年7月の弾道ミサイル発射以降、制裁を発動してきたが、解除すれば初めてになる。
貨客船「万景峰号」の入港禁止▽日朝間の航空チャーター便の乗り入れ禁止▽北朝鮮への輸出入の禁止--などの制裁は当面継続する。核・ミサイル開発に関与する団体や個人に対し、国連安全保障理事会決議に基づいて実施している資産凍結も維持する。
1日の日朝局長級協議では、北朝鮮の宋日昊(ソン・イルホ)朝日国交正常化交渉担当大使が特別調査委の体制を説明した。2日に帰国した外務省の伊原純一アジア大洋州局長は首相や菅義偉官房長官らに内容を報告し、岸田文雄外相は「北朝鮮側から丁寧な説明があったと報告を受けた」と記者団に明らかにした。
北朝鮮は04年、人民保安省(現・人民保安部)捜査担当局長を責任者とする調査委を設けて再調査したが、このときは「拉致は特殊機関が実施したため、調査に限界があった」と主張し、進展しなかった。日本側は今回の協議で、金正恩第1書記に直結した秘密警察の役割を担う情報機関「国家安全保衛部」を特別調査委に参加させるよう求めていた。
関係者によると、特別調査委の体制は、国家安全保衛部と警察機関「人民保安部」の幹部が人選を進め、両部主体のメンバー構成になるとみられる。
ただ、北朝鮮は6月29日、日本海に向けて弾道ミサイルを発射しており、日本の制裁解除によって、核・ミサイル開発への警戒を強める米国や韓国との足並みが乱れるのを懸念する声もある。
首相は2日、岩手県大槌町で「北朝鮮の誠意が本当にあるのかを見極めて判断したい」と記者団に語った。