来春の受験シーズンを前に、津軽海峡を渡った北海道函館市で、東北各地の大学による進学説明会の開催が相次いでいる。来年3月の北海道新幹線開業を見越 し、道南地域の受験生にアピールする戦術だ。一見、少子化を背景とした受験生争奪戦の様相だが、背景には「手をこまねいていては若年層を東京に奪われる」 という危機感の共有がある。
◎若者の東京流出を警戒
この夏、岩手大が受験業界の話題をさらった。函館市で8月に進学説明会を独自開催。前後して担当職員が函館周辺の進学校を訪問し、攻勢をかけた。
道南から国公立大を目指す高校生は従来、弘前大を志望する傾向にあった。しかし岩手大は「これからはうちも選択肢」(入試課)と強気の読みを披露する。
函館からの時間距離は現在、最短で弘前が2時間半なのに対し、盛岡は3時間20分。これが新幹線開業後は、どちらも1時間50分前後で肩を並べるためだ。
東北最大の私学、東北学院大(仙台市)も打って出る。北海学園大(札幌市)と合同の進学説明会を7月、函館、青森両市で開いた。「来年2月の一般入試では、新たに函館が地方受験会場になります」。東北学院大は道南の受験生を口説く切り札まで用意していた。
ただ、東北学院大入試課は「北海道とタッグを組んで受験生の東京流出を食い止めたいのが本音」と説明。交通網の整備に伴い、地方から大都市に人や資本が吸い取られる「ストロー現象」への対抗措置であることを強調する。
このストロー現象を最も警戒しているのが青森だ。県総務学事課は「新幹線が北に延びるたび、県内の若者が減っていく」と嘆く。
6月には県内27の大学・短大・専門学校を率いて海峡を渡り、進学相談会を主催した。担当者は「危機感しかない。ライバルは仙台、東京。団結して対抗する」とまなじりを決する。
新幹線開業が沿線自治体に及ぼす影響の地域比較を試みた東北大大学院情報科学研究科の河村和徳准教授(政治学)は「新幹線の延伸は常に受験地図を一変させる」と指摘する。
1997年に長野新幹線が開業すると、長野県内では下り方向にある金沢大の志願者が激減。ことし3月に北陸新幹線が金沢まで延びると、今度は関西の有名私大志向だった北陸の受験生が首都圏へ流れ始めた。
「北陸新幹線の開業ブームが続く金沢も、実は新幹線のストロー現象に翻弄(ほんろう)されている」と河村准教授。「受験生の増減は賃貸アパートの経営や不動産業に影響し、ひいては地域経済に変化をもたらす」と分析する。