<商業捕鯨再開>石巻・鮎川再生の追い風に 拠点エリアも着々

クジラに懸けた地域に差し込む光明になるか。日本の商業捕鯨が1日再開し、屈指の捕鯨の町だった宮城県石巻市鮎川が活気づく。東日本大震災で甚大な津波被害に遭って以来、復興のシンボルは常にクジラだった。観光関連施設が今秋一部開業し、捕鯨文化を伝える「おしかホエールランド」は来春再オープンする。軌を一にした商業捕鯨再開に地元の期待は膨らむ。
 柔らかい曲線を帯びた黒い屋根が約120メートルにわたって延びる。イメージしたのはクジラの背。市が鮎川港近くに整備する拠点エリア=?=が姿を見せ始めた。
 「震災直後の壊滅的な光景を今でも思い出す。当時は無理とも思ったが、ようやく『復興』という言葉が見えてきた」
 施設の管理運営を担う一般社団法人「鮎川まちづくり協会」代表理事の斎藤富嗣さん(59)がかみしめるように話す。
 津波で両親の代から営む民宿を失った。クジラは民宿の、そして地域の誇りだった。宿泊客には必ずクジラを振る舞った。白い皮と赤い肉を並べた紅白の刺し身は地域の慶事に欠かせなかった。
 商業捕鯨の再開を斎藤さんは歓迎する。商業捕鯨の鯨肉は、調査捕鯨と違って脂が牛刺しのように乗っていて「マグロよりおいしい」(斎藤さん)。
 鮎川には捕鯨会社2社が拠点を構える。市場に出回りにくい鯨肉の部位が流通すれば、クジラ好きや興味のある観光客が鮎川に来るきっかけにもなる。
 震災後、斎藤さんらはクジラを呼び水とした地域再生を模索してきた。
 鮎川港まちづくり協議会は2016年、鯨肉の新メニュー開発に着手。東京で6月13日に開かれた会合で「ローストホエール」を提供した。斎藤さんは「初めての人も抵抗なく食べてもらえる」と鯨食の広がりに期待を込める。
 31年ぶりの商業捕鯨は採算性など不安要素もあり、新たな捕鯨像はまだ描けない。「軌道に乗ればもっとクジラをアピールして地域を盛り上げられる」。斎藤さんはそう願いつつ「もろ手を挙げて再開を喜ぶにはもう少し時間がかかりそう」と将来を見据えた。

[拠点エリア]被災した石巻市鮎川地区の新拠点として市が約4.5ヘクタールを整備。観光物産交流施設を核に環境省国立公園施設ビジターセンター、おしかホエールランドの3施設を設ける。観光物産交流施設は建築面積1695平方メートル。飲食店など7店舗が入居し、クジラ料理などを提供する予定。

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