東日本大震災直後に宮城県内で流れた「被災地で外国人犯罪が頻発している」というデマを聞いた仙台市民の8割以上が事実と信じたとする調査結果を、郭基煥(カクキカン)東北学院大教授(共生社会論)がまとめた。宮城県警によると当時、外国人犯罪が増えた事実はない。会員制交流サイト(SNS)の普及で真偽不明の情報が拡散しやすい状況と、大災害直後の特殊な心理状態が背景にあったとみられる。
調査は昨年9~10月、被災した仙台市青葉、宮城野、若林の各区に住む日本国籍の20~69歳、計2100人を対象に実施。質問を郵送し770人から回答を得た。回収率は36.7%。
回答者全体の51.6%が「被災地で外国人の犯罪があるといううわさを聞いた」と答えた。そのうち信じた人は86.2%に上った。年齢や性別で大きな差はなかった。外国人犯罪を「確かに見た」と答えた人は0.4%、「そうだと思われる現場を見た」は1.9%とごくわずかだった。
情報源(複数回答)は「家族や地元住民」が68.0%と口コミが最も多く、次いで「インターネット」が42.9%。うわさとなった犯罪(同)は「略奪、窃盗」97.0%、「遺体損壊」28.0%の順だった。
当時はSNSで「被災地で外国人窃盗団が横行している」「外国人が遺体から金品を盗んでいる」といったデマが飛び交い、被災者の間でささやかれた。
宮城県警はうわさが事実ではないと確認。流言を否定するチラシを避難所に配り、治安は保たれていることを強調した。ウェブサイトでは「2011年3月12~21日の重要犯罪は4件で、10年同期の7件と比べて多くない」と説明した。
県警によると、県内の刑法犯罪の摘発者に占める外国人の割合は、震災のあった11年が1.5%。震災前の10年、翌年の12年は共に1.3%だった。刑事総務課の天野英克管理官は「11年が特別に増えたとは言えない」と話す。
1923年の関東大震災では「朝鮮人が暴徒化した」というデマが広がり、朝鮮人や中国人の虐殺につながった。昨年4月の熊本地震では、熊本市動植物園からライオンが逃げ出したとのデマを流した男が偽計業務妨害容疑で逮捕された。
宮城県警生活安全企画課の金野聡課長補佐は「当時は一つ一つ打ち消すしかなかった。災害時には必ず(デマが)出るとみて丁寧な広報に努めたい」と話す。
郭教授は「非常時には常にデマが出回るが、実際に犯罪はほとんどない。次の大規模災害に備え、デマ対策を災害教育に位置付けるべきだ」と提言する。