家庭料理の定番だったカレーライスが食卓に上る機会が減っている。高齢世帯や子どものいない少人数世帯が増え、煮込み料理のカレーは「手間がかかる」と敬遠されているようだ。食品メーカーは、フライパンを使って10分以内で作れるソースや粉末タイプの新商品を開発し、「カレー復権」に躍起だ。
【グラフ】どれだけ減ってる?カレールーの年間平均購入量
「昔は週に1回はカレーを作った」と話すのは、堺市堺区の田中篤子さん(67)。3人の息子に食べさせようと、朝からコトコトとカレーを煮込んだ。大きな鍋に固形のルーを数種類入れ、チキンスープで仕立てた。タマネギは6個使い、ニンジンをすって入れるなど工夫した。大量に作っても、1度の食事できれいになくなった。
だが子どもは独立し、今は1人暮らし。最近は家でカレーを食べることも減り、食べる時は専らレトルトだ。「カレー作りは若いからできた。懐かしい思い出です」
福岡市中央区の米田賀代子さん(64)も「昔はカレーを作れば子どもも喜んでくれたけど、今は80代の母と2人暮らし。少量作ってもおいしくないし、冷凍してもまずい。やっぱりカレーは若い人の食べ物ね」と語る。
高齢世帯だけではない。今夏に育休から復職したばかりの東京都の女性会社員(40)も「忙しい時はレトルトを使う。カレールーは以前より買わなくなっているかも」と話す。
総務省の家計調査によると、昨年2人以上の世帯でカレールーを購入した量は1691グラム。2000年ごろまでは2000グラム前後で安定していたが、ここ10年ほどは右肩下がりの状態が続いている。
江崎グリコが11年、大都市圏に住む20~50代の既婚女性と単身世帯の男女に行ったインターネット調査で、カレーを作る時に不満な点を尋ねたところ「洗い物の汚れが取れにくい」(58%)「多く作り過ぎてしまう」(47%)「調理に時間がかかる」(31%)などが上位に挙がった。
同社広報は「子どものいる家庭はともかく、夫婦だけの世帯は、カレーを家で作るのは面倒と感じ、作る頻度が減っているのでは」と分析。8月に初の粉末商品を発売した。ハウス食品やエスビー食品など、箱入りのカレールーで人気を博す他の食品メーカーも、昨年から今年にかけて同様の商品を発売している。
これらの商品は、フライパンで肉などを炒めた後にソースや粉末を入れて一煮立ちさせるだけで出来上がる。また、従来の固形のルーは、ルーを固めるため製造時に油脂を加えており、油汚れの元になっていたが、粉末やソースタイプの製品は油脂が少ないため、後片付けも楽だという。
ハウス食品は「家族みんなで食べ、一晩寝かせたカレーを楽しむには固形ルーを、時間がない時はフライパン用のカレーを」(広報)と「使い分け」を勧めている。【田村佳子、大迫麻記子、鷲頭彰子】