<富谷新交通システム>構想から一歩踏み出せ

政治家の公約は重い。未達成だったり住民への説明がないまま修正したりするなら、次の選挙で厳しい審判を受ける。では、富谷市内と仙台市地下鉄南北線泉中央駅を結ぶライトレール(次世代型路面電車、LRT)構想を2015年に掲げた若生裕俊富谷市長の場合はどうか。2月に1期目の折り返しを迎えるのに具体像はいまだ見えず、住民のざわめきが聞こえてきそうだ。
若生市長がLRT構想を打ち出した狙いは「仙台市との間で生じる慢性的な交通渋滞の解消」にある。だが、課題の解決に向けてこれまで取り組んできた内容に、住民は合格点を付けないだろう。
関連する政策はいくつか着手した。昨年10月の市制移行に合わせ、富谷市は仙台市発行のICカード乗車券イクスカを活用できる高齢者・障害者向け外出支援交通乗車証「とみぱす」を導入した。富谷市役所と泉中央駅との間を民間バスで結ぶ実証実験にも乗り出した。
だが、肝心の通勤通学ラッシュ時の対策や、LRTを含む新公共交通システム事業計画の推進については「専門コンサルタントに調査を依頼した」段階。いまだ内向きの議論にとどまっている。
コンサルは15年度、準備調査として(1)地下鉄南北線の延長(2)LRT整備(3)路線バスの強化-の3案を比べた。3案はあくまでコンサルが仮定した対策だが、比較の結果は当然ながら「渋滞緩和にはコストを度外視すれば地下鉄延長が最も効果が高い。導入コストを抑えるなら路線バス強化に軍配が上がる」となった。
16年度は「技術的部分も含めた深掘り」(若生市長)として追加の調査を依頼しており、3月までに報告を受ける。新年度には報告を基に新公共交通システム事業の検討を加速させるとしているが、計画がどこまで具体化するか不透明な部分が多い。
構想提示から2年を経ても浮かんでこない具体像。市長の周辺からは「富谷市が独断で先走ると仙台市や宮城県に誤解を与え、構想が立ちゆかなくなるとの懸念があり、市長は慎重になっている」との声が漏れる。
だが一方、市長が具体像を示さないため、住民の間で「富谷に地下鉄が来るらしい」と期待交じりのうわさが先行している。駅のない富谷市にとって朝夕の渋滞解消に加え、住民の鉄道への渇望は潜在的に高い。市長公約が誤った情報として独り歩きする状況は軽視できない。
宮城大の徳永幸之教授(交通計画)は「富谷市は既に自動車社会を前提とした街並みが出来上がっている。LRTや地下鉄といった駅や専用道路を整備すればかえって渋滞を招き、まちづくりの障害になることもあり得る」と指摘。「慎重な議論と将来を見据えた長期的な視点が不可欠だ」と訴える。
若生市長は「任期中に新公共交通システム事業の計画策定までたどり着きたい」と意欲を見せるが、長い道のりになるのは必至だ。
5万超の人口を擁し、市として再出発を果たした今こそ内向きの議論から一歩踏み出す好機だ。住民との対話や仙台市、宮城県、国との協議といった外向きの議論に切り替えていくべきではないか。(泉支局・北條哲広)

[ライトレール構想]若生裕俊富谷市長が2015年2月の町長選(当時)で打ち出した構想。ライトレールは欧米などで導入されている軽量級の都市鉄道で、本格的な鉄道整備より低コストでバスより輸送力が大きい。環境負荷も少ないのが特長。国内では江ノ島電鉄(神奈川県藤沢市)、富山ライトレール(富山市)など7路線がある。

タイトルとURLをコピーしました