宮城県が整備する広域防災拠点について、県は開会中の県議会9月定例会にJR仙台貨物ターミナル駅敷地(仙台市宮城野区、17ヘクタール)の取得議案を提出し、議論は大詰めを迎えた。総額300億円近い一大プロジェクトを展開する建設予定地を巡っては、一部に異論があるものの、村井嘉浩知事やJR貨物、地域住民の思惑が合致する「最適地」だったことがうかがえる。関係者の話から選定の経緯をたどる。(報道部・片桐大介)
2012年夏、仙台市内であった医療関係者の会合に出席した村井嘉浩知事は、仙台医療センター(宮城野区)の建て替え計画を耳にした。「現地建て替えは不便でしょう。そばにある県の宮城野原公園総合運動場に来たらどうですか」と提案し、実現性を探った。
同センター移転の検討が東日本大震災からの「創造的復興」と結び付く。震災の教訓から村井知事は防災拠点の重要性を痛感していた。「ヘリポートを造ってドクターヘリを導入しよう」「ターミナル敷地も取得すれば、センターを含め災害時の一大拠点になる」
複数の県関係者は「防災拠点にするかどうかはともかく、大変に有用で広大な土地だ」と指摘する。
隣接する築66年の楽天Koboスタジアム宮城(宮城球場)は近い将来、建て替えが課題になる。「ターミナル敷地は建て替えの候補地になり得る。行政が所有すれば宮城野原地区全体の再開発も可能。未来への投資だ」(県関係者)との見方も強い。
1961年開設のターミナル駅を巡っては、10年以上前から移転構想が浮上していた。JR貨物と仙台市、東北運輸局は2004年、宮城野区岩切地区への移転を探る検討会を設置。貨物の大半を占めるコンテナ荷役に適した新施設を目指したが、採算性が厳しく立ち消えになった。
県から今回、売買の打診を受けたJR貨物にとっては「渡りに船」だった。岩切地区は東北線沿いの平たん地で国道4号や仙台港に近く、「市内で最も新ターミナル向き」(東北支社)。同社は「新施設ができれば輸送効率が高まり、時間とエネルギーの節約になる」と移転を決断した。
新駅用地となる農地の地権者交渉は早々にまとまった。地元市議は「多くの農家が後継者不足に悩んでいる。早く土地を売却したいのが本音」と明かす。
宮城野区選出の県議を3期務めた村井知事は、地元事情を熟知する。ターミナル駅以外の土地は防災拠点の選択肢になり得なかった。県OBは「県、JR貨物、岩切地区の3者全てが喜ぶ仕組みになった」と知事の政治手腕に舌を巻く。
県議会内には「宮城野原地区に防災拠点を置く必然性がない」との批判がくすぶる。県は取得議案が可決した後、JR貨物と正式契約を締結する予定。
[広域防災拠点] 災害時に警察や消防などの部隊、支援物資の集結場所となる。平時はサッカーや野球が可能なスポーツ広場として整備。県は2020年度の一部利用開始を目指す。総事業費は295億円。国土交通省の交付金を活用し、県の支出は155億円程度の見通し。