広島市の松井一実市長(59)は1日、原爆の日(6日)の平和記念式典で読み上げる「平和宣言」の骨子を発表した。東京電力福島第1原発事故で国民的議論が進んでいることを評価し、市民の暮らしと安全を守るエネルギー政策の確立を政府に求める。「脱原発」の是非には今年も直接言及しない。また被爆者援護施策では、原爆投下後に降った「黒い雨」の援護対象区域拡大に向けた政治判断を迫る。
昨年就任した松井市長にとって2度目の平和宣言となる。「早急な見直しを求める」とした昨年より踏み込む形で国のエネルギー政策に触れ、広島の被爆者で原水爆禁止日本国民会議(原水禁)議長などを務めた故森滝市郎氏の「核と人類は共存できない」という言葉を引用する。東日本大震災の被災地を応援する言葉も盛り込む。
同市などが求めてきた「黒い雨」の援護対象区域拡大について、厚生労働省の検討会は7月、援護対象区域の拡大は「困難」とする報告書をまとめた。宣言では「政治判断」の表現で政府側に対応を強く求める。松井市長は「黒い雨」の政治判断を求めることについて「(原爆投下から)67年がたっており、過去の証拠を見つけるのは難しい。それを超えた判断をしてほしい」と話した。
また昨年同様、公募した被爆体験談を盛り込む。応募があった28件から当時13~20歳だった男女3人分を選び、廃虚と化した街並み、家族7人のうち1人だけ生き残った悲しみ、遺体の収容作業に従事した体験を紹介することで、失われた市民生活を描き原爆被害の不条理を訴える。
宣言冒頭に「1945年8月6日8時15分」と明示し、若い世代に被爆体験を伝える意義を強調する。同市が今年度始めた被爆体験の伝承者事業、創立30年を迎え世界5300都市が加盟する「平和市長会議」の活動にも触れる。【中里顕】