米空母艦載機の陸上離着陸訓練(FCLP)の移転候補地になっている鹿児島県西之表市の馬毛島(まげしま)を巡って、政府と地権者の交渉が年内にもまとまる見通しになった。難航していた売却価格で双方が歩み寄り、政府が110億~140億円で馬毛島を取得する。国内でFCLPの騒音被害に悩まされてきた自治体にとっては負担軽減につながる。政府は米海兵隊が沖縄県で実施してきたMV22オスプレイの訓練移転も視野に入れている。【木下訓明、田中韻】
FCLPは、陸上の滑走路を空母の甲板に見立てて艦載機が降下と上昇を繰り返す訓練。騒音問題の深刻化を受け、1991年から暫定的に硫黄島(東京都)で実施している。
日米の外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)は旧民主党政権時代の2011年6月、FCLPの移転候補地として馬毛島を共同文書に明記した。16年に売買交渉が本格化したが、島の大半を所有する開発会社「タストン・エアポート」(東京都)は一時、約200億円を要求。防衛省は約50億円を主張し、交渉は平行線をたどっていた。
こうした中、今年10月に同社の社長が交代。新社長は価格交渉に柔軟な姿勢に転じ、政府との協議が進展した。岩屋毅防衛相は10月26日の記者会見で「FCLP施設の確保は安全保障上、極めて重要な課題。協議を加速したい」と述べた。
FCLPは硫黄島が悪天候で使えない場合には、米軍厚木飛行場(神奈川県)や米軍三沢基地(青森県)で実施されるため、現在、空母艦載機部隊が駐留している米軍岩国基地(山口県)を含む3県が騒音被害などを訴えていた。
馬毛島は無人島。岩国基地からの距離は馬毛島が約400キロ、硫黄島が約1400キロで、米軍にとっても移転はメリットがある。交渉がまとまれば、政府は地元に説明し、理解を求める方針だ。昨年3月の西之表市長選では移転反対派の八板俊輔氏が初当選した。ただ、八板氏は就任後に「ニュートラルな立場」を表明し、市民には経済効果への期待もある。一方、地元医師会や漁業者の一部は移転に反対している。